森里家の日常15

風向きが変わった?


お休みの午後、縁側に出来た影の中で森里螢一は
まどろんでいた。
陰影のコントラストが少し緩くなってきたような季節に
そよそよと風が舞い込んで来る。
最近の暑さときたら、なんだろう、殺す気ですか?と
問い質したくもなっていたのだが、今日はどうだろう、
何とも言えない心地良さだな。


螢一は思った。


そう思うと何時の間にか睡魔が耳元で囁くような気が
して、まぁ実際はしてないけど。
そんなこんなで縁側の板張りに体を沿わす様にした。
つまり、横になったと言う按配だ。
目を閉じると風が通り過ぎる時の木々の音とか、遠くで
響くそれが何か分からないが、一定のリズムが心地良く
何時の間にか螢一は眠ってしまった。



「あら?」
あらあらまあまあ!螢一さんったら!


そんなベルダンディーの後ろからひっこり顔を出す
ホーリーベルも、彼女と同じような表情をして
螢一を見詰める。
「!」
「どうしたの?ホーリーベル」
ベルダンディーの耳元であのねあのねをする
「そう、風が…」


ベルダンディーの亜麻色の髪が風にそよいだ。




螢一の部屋からタオルケットを持って来た彼女は
そっと彼にかけようとするのだが、どうしてか
風が邪魔をする。
「いたずらさんねっ」
嗜める様に声に出して
「ちょっと待っててね」
そうお願いした。


可愛い寝顔です。


今度こそ、とタオルケットをかけようとしたその時
螢一が寝返りをうってしまった。
「あら?」
うふふ、ちょっと楽しいです。
ではもう一度、と近寄り膝詰めしたその時
「まあ!」
更に寝返りをして、元に戻った彼の頭部はなぜか
彼女の膝の上に。



後日談。



「ええ、そうよ!あの日は庭中に花が満開だったわ!」
「やれやれ…仲が良いのも程ほどに…と」



そんな森里家の日常。


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*** *** ***


残暑お見舞い申し上げます…ってそれも遅いですね。

そんな帰り道

「じゃあ、行ってくるわね!」


そう言い残すとマリアベルちゃんは行ってしまった。
いつもの通学路、その帰り道で急に何かを思い出した
彼女は「忘れてた!」とウルドさんとの約束を
思い出したのだった。
いつも同じように登校して、同じように下校しての
ルーティンは、そう悪くはないと思うのだけど、
マリアベルちゃんにしたら、ちょっと物足りないかも
とか思うと、何だか淋しくなるなぁ。


「ちょっと女子力を上げてくるから!」
とか何とか言ってたけど、彼女が本気出したら、この
銀河最強なのは誰でも知っているのだけどねぇ。



で。


そんな時にコレなのよ。


「あ、雨…」



もちろん用意周到な私なのですもの、折り畳みの傘を
ちゃんと用意して…
「あ…ない?」
まさかの雨、そしてこんな時に限ってゲリラ豪雨とか、
有り得ないわ。
取り合えず、軒下に逃げ込んだのだけど、こんな雨量
なのだから、道路に叩き付けられた雨が跳ね返って
私のスカートとかずぶ濡れよ!


「あ〜あ…」
ついてないなぁ、と思ってたのね。そしたら。


「カレン!」
「え?お父さん?」どうして?
「うん、ママがな、雨が降るからって」
ほら、と言って私の傘を差し出して
「忘れてただろ?」


「うん…ありがと」
でもね、私ね、今はね…
「うおっと!」
「相合傘したい!」
「うん、いいよ」


そんな帰り道。


なんだか小さい頃を思い出しちゃった。


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*** *** ***


カレン可愛いよカレン。

森里家の日常14

「愛する事が、私達女神の力になるのよっ」



日中の暑さが少し和らぐ午後、西に降りて行く
太陽が「また明日」と告げる頃にはささやかだが
風も出てくる。
みんなと夕餉を囲み、他愛の無い話やTVの話題
そんな儀式のようなルーティンのような時がある。


「あらスクルド、また残したの?」
「…だってあたし、別に食べなくても死なないもん」
「それはそうだけど、好き嫌いは良くないわよ?」
「う〜ん…」


「そうよぅ〜ちゃんと食べないと大きくならないわよ」
「うるさいわねーウルドは黙ってて!」
「へぇ、良いのかしら?あたしやベルダンディーみたい
に大きくならなくても?」
「ううう、うるさいわよ!もう!」
ウルドのばーかばーか、とまるで負け犬の遠吠えのよう
に悪態を付き三女は退散する。


「困ったものねぇ」
「姉さんも言いすぎですっ」
「はいはい、わかったわかった」
やれやれ、と言った風情で長女の退散である。



ふぅ、やれやれ…


でも確かに好き嫌いは良くないよな、と螢一は思う。
ちゃんと食べないと成長もしないしな。
…俺、ちゃんと食べてたし好き嫌いも無かったけど
成長…う〜ん。


「螢一さんっ?」
「いや、ああ…そうだ、ベルダンディーってさ」
好き嫌いってあるの?と螢一は尋ねた。


「好き嫌いですか?」
「うん」
「私、嫌いなものはありませんっ」
「そう、だね…あはは」
だよな、女神さまっだもんな。


「逆にさ、好きなものは?」
「螢一さんっです!」
「あ、あの…食べ物の事なんだけど…」
「あ…私ったら…」
「あはは」
「うふふ」



そんな感じの森里家の日常。


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*** *** ***


ほうれん草は大事だ。体にも仕事にもね。

森里家の日常13

「あら?」



買い物に行こうとした所、愛用の自転車の調子が
良くない事に気が付いた。ペダルが空回りする。
これは天の配慮?それとも…


「あれ?どうしたの?」
「螢一さんっ、それが…」


自転車のサドルに手を置き、途方に暮れている私を
見て、それから自転車を見詰める彼は。


「ああ、チェーンが外れているんだな」
原因を見つけ、そしてちょっと申し訳なそうに
「ごめんね、もっと早く気が付けば良かったな」
ちょっと待ってて、と言って納屋へと向う彼。


それから彼はとても手際良く外れていたチェーンを
直し、調整する。


「できたよ」
「まあ!」
嬉しくてつい、彼の手をとった。
「ああ…チェーンの錆とかオイルで汚れてるのに」
「ふふ…だったら螢一さんっと同じです」
ほら、と私は手のひらを見せた。


同じように手を汚して笑う二人だった。



「相変わらずラブラブだわねぇ」
「ホントそれ!」
「あら?スクルドだって仙太郎君と?」
「いわないで」
「言っちゃダメなんだ」
「そうよ!」


「ふぅん…」



私がいて、螢一さんっが居て、そして姉さん達がいる。
それが私達の今の生活、そしてそれが家族って事なの。


「家族?」
「そう、家族」
「神属とか、同じ?」
「親族?そうかも?」



そんな感じの森里家の日常。


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*** *** ***


絆。

森里家の日常12

う〜ん、これはなかなか…


「…あ・つ・い」
手にしている団扇をさらに扇ぐのだが、これがまた
汗を噴射しているような。
そうだよね、気温はすでに三十度を超えているもんね。
熱湯の中をかき混ぜているような気がする。
「熱湯…かき混ぜる、か」
納豆ならいくらでもかき混ぜてもオーケーだし。
いやむしろ、もっともっと!とかなんとか。


取り合えず、と言うか、猫は家の涼しい場所を知って
いると誰かも言っていたし、うちの猫は縁側の日陰で
じっとしているので、俺も倣うようにしているのだが
どうしてこうして、吊るしてある風鈴もピクリとも
しない。


庭の木々の陰影がくっきりして、その場所を移動せず、
見上げる空は青々として、とても清清しいのだが、
暑いのだ。とても暑いのだ。
大事な事なので、二度言いました。



「螢一さんっ」
そこに清涼感たっぷりの声が届く。
「今日はとても良いお天気ですねっ」
実に軽やかな時候の挨拶と共に。
「麦茶を用意したのですが」
そして実にタイムリーなのであった。


「あ、ありがとうベルダ…って!ええー!」


彼女はとても涼しげな装いをしていた。
うん、ちょっぴりスポーティでもある。
そう、夏に相応しい装いだった。



「水着?」



そう水着だ。海辺やプール等ではごく自然なそれも、
場所を変えると実にアレである。
しかも彼女は、何て言うか…ナイスバディである。
セパレートに分かれた小さな布地はとてもカラフルで
夏にぴったりな一品に間違いない。


ううむこれは…何かのトラップか、それとも孔明の…



「ジジャーン!あたし、参上!」
彼女の妹である所の、姦しい一人が登場した。
見ると彼女も水着だった。サーモンピンクのワンピース
水着は若々しい肢体をさらに際出せていた。


「真打は、あ・た・し〜よねっ」
そして最後に登場したのは、漆黒の堕天使…ではなく、
褐色の肌も眩しい、彼女の姉である。
そして彼女も水着を…あれ?


何やら薄い襦袢をさらりと羽織っているだけの姿だ。
水着っぽいものが見当たらない。



「螢一さんっ、みんなでプールに行きませんか?」


爽やかな笑顔と共にベルダンディーの声が耳に心地よく
響くのは良いが、マジでこの連中と行くのか?



どうやら暑い夏が到来したみたいだ。



 そんな感じの森里家の日常。


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*** *** ***


ホント暑いよねー。三十三度とかー!わー!

森里家の日常11

「もっと女子力を!」
スクルドはそう強く思うのだった。女神だけど。



そんな感じの日常でも、ささやかなイベントは
ある訳で、今日は庭に面した縁側には笹が一本立てて
ある。
そう七夕の支度だ。
縁側には冷やした麦茶と切り揃えたスイカコントラスト
が季節を彩っていて、その冷えた麦茶の入ったグラスを
手にして、螢一は空を見上げた。
「夜は…晴れたら良いな」


「願い事…もう書いたのですか?」
「え?ああ、短冊だよね」
「ええ、可愛く出来たので」
そう言って色取り取りの色紙で作った短冊を見せて
ベルダンディーは微笑んだ。
「そう言えば、ウルド達は?」
「姉さん達は…その、まだなんですが…」
「暗くなるまでに用意させないと、ね」
「ええ、そうですねっ」


思えば願い事を叶える立場にある女神さまっ達から
願い事を短冊に書けって事が実に奇妙なんだけど、
これはイベントだしね、と螢一は考える。


時折風が通り過ぎるのか、縁側に吊ってある風鈴が
チリンと涼しげな音を立てていた。


その頃スクルドは、台所で奮闘中だった。
とは言うものの、洗い物をするだけなのだが。
「どうしてこうなるの?」
欠けた皿や茶碗を目にして、涙目になっていた。


もしかして、武装が完璧ではなかった?
そうだエプロン!エプロンよ!
そう言えば、正装は裸にエプロンだと誰かが言っていた
ような気がするわ!
誰だったか…


でもそれはイヤ!
全裸なんてヤ!
見ても良いのは仙…ヤダー!



そしてウルドは自室で、何やら研究に余念がない。
「うふふ…」
恋のキューピッドとしては、七夕の恋の行方は
気になるわよねっ。
織ちゃんも彦くんも、あたしの手にかかれば一網打尽
ドンッと来いだわ。恋だけに。



そんな感じの森里家の日常。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


明日は七夕。

森里家の日常10

「いつも楽しそう…」


そんな感じで姉であるベルダンディーが台所で家事を
している姿を見詰めて溜息をもらす三女は、今日は
何だかやる気を出しているようだ。


お姉さまがあんなに楽しそうにしているって事は、
きっとわたしも楽しいに違いないわっ、と意気込んで
台所へと赴いたのは良いのだが、いかんせんそれは
食事が終わった時刻であった。


「あらスクルド、お手伝いしてくれるの?」
「あ、うん…ええ!お手伝いするわっ!」


と言う訳で後片付けをする事となる。


使い終わった食器類がシンクの中で綺麗になる事を
今か今かと待ち侘びている流しの前に立った彼女は
「ここで敵前逃亡は重罪なのよ!」と獅子奮迅する
のだが、何をどうして良いのやら皆目検討も付かない。


ベルダンディーは「こうして、こうするのよ」と
優しく指南してくれるのだが、彼女にとってそれは
指南と言うよりも、至難とも言えた。


なんて事!こんなミラクルをわたしに…


できるかしら?いいえ、出来るかしらじゃなくて
やるのよスクルド!と鼓舞するスクルドであった。


「じゃあ、お願いね」
笑顔で台所を後にする彼女の姉。
「うん、任せて!」
力強くガッツポーズを見せる妹。



今、あたしは前線にいる。
そう、ここは戦場なのよねっ。
幾多の万難を排してこその幸福感、それが楽しさって
もんよ!わかるわー、そしてあたしなら出来る!



いろいろ間違ってますが、それが森里家の日常。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


洗い物ってマジでめんどくさいのよねー。