Long distance call

もしもし?

それはまるで 長い夏休みのような

終わらない休暇の果てのような

掴み所のない 浮遊感を感じていた。


徹夜続きの作業のせいなのか、久々の休日には

朝寝坊と決めている。

「う〜ん…」

今、何時なんだ?と部屋の柱時計を見ると

すでにお昼は過ぎていた。

「やれやれ…休日はいつもこうだ…」

ワール・ウインドのオーナー店長である、藤見千尋さんは

とても人使いが荒い…とは言うものの、それはそれで

膨大なスキルを身に付けられる、素晴らしいチャンスなのだが

だからと言って、やはりこちらも生身の人間

疲れる時は、疲れる…自然の摂理って言うやつだ。


俺は今、その店で働いている。もっともまだ大学生なのだが

いわゆる留年ってやつで、5回生をしている最中だ

大学では、自動車部に所属していた…していたと言うのは

すでに5回生で、後進に部長の座を明け渡したからなので

気が向いた時だけなのだが、時々部室には顔を出している。


重たい身体を、やっとの事で布団から出して

とりあえず、飯の支度でもしようと部屋から出た時

玄関先にある、今では懐かしい黒電話の呼び出し音が

聞こえてきた。

「ふむ…誰からかな?」

また先輩たちじゃ困るよな…そんな不安もあったが

とにかく受話器をとった。



それはとても懐かしい声…そして聞き覚えのある声だ

「もしもし?森里ですけど…」

「螢一?鷹乃よっ!あんた、この夏は…」

夏休みは、こちらへ帰ってこないのか?と言う鷹乃さんからの

電話だった。

俺の故郷は、北海道の釧路である。ここからはとても離れている。

そう言えば、在学中も帰ってなかったなぁ、と感慨してた所

「恵も誘って、ね?帰ってらっしゃいな?」

と、鷹乃さんは言った。



帰郷かぁ…



分かった…とにかく恵と相談してから、連絡するから、と

いったん受話器を置いた。

鷹乃さんの「絶対よっ!」の声を聞きながら。



多忙な作業に我を忘れて、あの時感じた喪失感を思い出した

もしかしたら、帰れば何かきっかけを知る事が出来るだろうか

そんな事を考えながら、俺は恵に電話をかけるのだった。


呼び出し音が鳴る…

この後、彼を待ち受ける運命やいかに…



 Long distnce call.


by belldan Goddess Life.