2007-08-01から1ヶ月間の記事一覧

Solid Black 8.

「じゃ、行って来るっ」スクルドは あっさりとそう言って、風呂場へ行った。 チャポンと水の音がして、その後は静かになる。 いつも思うのだが、不思議な現象だ。 ウルドの言葉を告げた後、スクルドは満面の笑みで それはまるで遠足へ行くかのような喜びだっ…

Solid Black 7.

「もしもし?螢一?」 それはノスタルジックな華奢な受話器を 褐色の細い指が、音楽を奏でるようにして 「あたし、ウルドよん」 天上界からの電話だ。いつもは騒がしくて辟易する その声も、懐かしい、と言うか愛しいと思った。 「それで・・・大丈夫なのか…

Solid Black 6.

電話が、かかってきた。 「あたし、出るっ!」 スクルドは満を持して玄関先へ行った。 「あ、仙太郎君っ!うんうん!」 どうやら相手は、川西仙太郎君だ。 取り留めの無い話が長く続き、そして会話が終わった。 「ふふん〜」 とても機嫌が良いらしい。 スク…

Solid Black 5.

そこを音楽に例えるなら何と言えば良いだろう 荘厳な交響曲、それとも雄大な行進曲か 煌くダイアモンドの如く、輝く建物には 誰が暮らしているのだろうか。 そこには豊かな森もあって、何処からか吹いてくる 風にそよぐ木々から、森林独特の豊かな香りがする…

Solid Black 4.

最初に異変を察知したのは、魔界長ヒルドだった。 ある異世界が消失…そのサーチを魔属戦闘部隊に命じたが 彼らからの音信が途絶えた。 事の次第を重く見たヒルドは、急遽地上界に降臨している マーラーを帰還させたのであった。 執務室へと続く、長い回廊を…

Solid Black 3.

コンビニ脇の駐車場へバイクを止めた。 ここは以前、俺とベルダンディーがバイトをしてた コンビニだ。俺達は千尋さんの店で仕事をする事に 決まったので、その後人をどうしようか、と考えて いた際、マーラーと会った。そしてマーラーがとても 食に窮してい…

Solid Black 2.

夜の夢、カオスの見る夢はいつだって 焦燥感と孤独感で杯を満たしていた。 この世界には、月もなく星もなくて でも、ただひとつの扉だけがあった。 それは途切れ途切れ聴こえて来る チェロの練習曲みたいな音楽と 反復する音が織り成す単純で複雑なメロディ…

Solid Black 1.

朝にメロディーがあるとしたら それはきっと 君に良く似た歌だと思った。 東の空から進軍してくる光の軍団に抗える部隊は無い 遮るカーテン越しに、それらは容赦無く訪れる 俺の朦朧とした頭にも、その光は届き、目覚めの時を 告げるのだった。 傍らに寝てい…

Etude non temo.

光の三原則 銀の三角 白の三角 紡ぎ上げた世界の 歴史のタペストリ 風の乗る絨毯 雲間から見える場所へ 舞い降りる白き羽の その不安定なリズム 産声を上げた 新しい世界に 混沌とした 無垢なる器に 光が差し込まれ 秩序の礎となる やがて世界は 光と影の織…

Solid Black

何時の間にか、その小さき生き物は姿を消した。 まどろみの中、最後の言葉、最後の思いを聞いたような 気がしたヴェルスパーは、その不思議な感覚に戸惑った。 森里家の縁側に猫がいる。ひとつは黒い猫、額に紋章のある。 そして最近迷い込んで(それは女神の…

Kiss on your lips ?

俺は何でこんな所にいるんだろうと、考えている。 ひとりで筏に乗って、漆黒の海を彷徨している。 「ははん、これは夢やな」 俺はニヤリとして、ギュと俺の頬をつねってみた。 「い、痛いやんかっ!」 あれ?…んじゃ、これは夢じゃないのか?だったらなぜ 俺…

Summer Breeze EX.

「あ〜やっぱり良いわねぇ〜」 冷えたビール、ビーチパラソルとビーチベッド そこに横たわるのは何とも妖艶な褐色の美女だ。 「ウルドはどこ行ってもお酒ばっかりっ!」 可愛いフリルの付いた黄色のワンピース水着の 美少女がそれを見て憤慨している。 「姉…

ふたりでお茶を

「ありがとう」 いつも彼が私に言う言葉。 6畳の食堂、みんなのティールームでTVを観ている彼に いつものように私がお茶を淹れ、胡坐をかいて座る 彼の前、つまりちゃぶ台にのせると 「いつもありがとう ベルダンディー」 そう言って、私に笑いかけてくれ…

彼女の散歩道

彼女の散歩道 風の通り道 それはまるで 導かれる様にして ふたりはそぞろ歩いて行く。 風に揺れる 長い髪が まるで踊るっているように見える ささやく声と ささやく声が ひとつになる場所探して歩こう。 街路樹は青々とした葉を茂らせて 木漏れ日の中に世界…

真夏の夜の森里家

他力本願寺の裏には森がある。 その森の中には、井戸のような穴があると言う。 「そこに落ちちゃうとねぇ…もう帰れなくなるのよ」 「まぁ!」 「ひぇぇぇぇぇっ!」 ウルドは真剣な面持ちで、静かに話を続けた。 「ほら私たちってさ、女神だから大丈夫だと思…

その、目線の先には...

時々キャンパスで見かける女子がいる。 いつも、どこを見ているのか、その姿は 飄々として、捉え所の無い印象がある。 名前は…沙織と知った。 友人達は「沙織は変わり者」だとか「ただの無口」とか とにかく本人からは、何も言わないのだ。 声をかけて誘って…

Summer Breeze 12

時の守護神の想い・・・。 広大な銀河をもその中に内包できる力を持ち あらゆる次元を行き来し、あらゆる歴史への 干渉も出来得る存在…それがノルンの力だ。 そして、世界を構築し、破壊し、再構築する 活性化させる命も受けている。 過去、現在、そして未来…

Summer Breeze 11

この世界のどこかの、それは小さな世界に光が満ちる その光は、大きな光から分光したものだった。 漫然としたカオスのような空間に、光と影のコントラストが そしてそれは、新しい始まり...。 「おはようございます 螢一さんっ」 安らかな寝顔が、笑顔に変わ…

Summer Breeze 10

小鳥たちが、声を揃えてさえずっている サワサワと木々の揺れる音、風の囁く音 そして、夏の音と言えば蝉の楽団だ。 その音に目が覚めた俺は、昨夜の事を考えてる ウルドの言った言葉、その意味を俺なりに検討している 「まさか…ウソだった…だなんて、後で言…

Summer Breeze 9

この宇宙には、たくさんの銀河がある。 そこにはまだ見知らぬ存在が在って、それぞれの 世界を構築している。 この世界にも、たくさんの世界が重なり合って その存在も知られず、干渉もされず折り合っているのが 事実なのだった。 位相空間、平行宇宙、ある…

Intermezzo...

それは先月7月7日の事だった。 「はい、分かりました どうもご親切に」 ベルダンディーが誰かと電話をしていた…していたと言うより かかって来た、と言う方が正解だが、それでもちょっと長くないか? 俺は台所の前、つまりTVが置いてある部屋、通称みん…

Summer Breeze 8

程なくして帰宅して来たスクルドの機嫌がすこぶる良い もし見えるとすれば、彼女の背景にはお花畑が在って 白い帽子と、可憐なワンピース姿の乙女を彷彿させる佇まい の様だと思う…たぶん。 「ただいま〜おねーさまぁ!」 そして何やら手にはお土産らしき物…

Summer Breeze 7.5

縁側に猫が居る、それも二匹。 大きい黒猫と、小さい黒猫は、それぞれ丸くなって 眠っている。 小さな黒猫は、夢を見ているのだろうか 時々ニャウニャウと何かを言っているようだ。 その都度大きな黒猫は、子猫の顔をなめて それはまるで窘めるかのような仕…

Summer Breeze 7

それは兎も角としても、ウルドいつも一体何処から 物品(お酒の類とか)を入手しているのだろう。 しかしあの美貌だ…俺達の知らない世界を持っていて そこには貢物を差し出す女王の配下とも言うべき存在が いるのだろう。 今日もそんな感じで、両手に抱え切れ…

Summer Breeze 6

夢の中の俺は、たぶん俺以上に貪欲な存在だ。 あらゆる理性と言う秩序は、融解されて本能だけの存在になってしまう。 思い即行い…しかしこれは、原始からの人の行動原理だとも言えよう。 ただ…ひとつ違うのは、それが少なくとも感情と言う分野の中にあるもの…

Summer Breeze 5

夏の影が濃くなる… 小高い丘とは言え、坂道は自転車にとってはキツイ その坂を、一台のBMXが颯爽と風を切って上がって来た。 「さすがに…夏場はキツイなぁ」 フゥフゥと息を切らせて、その自転車は坂を進む。 ようやくお寺の正門に辿りついたその者は、額…

Summer Breeze 4.5

海を見に行く…とは言ったものの、さしたる準備も しないまま、このままシェスタを決め込むのも悪くない そう考えていた螢一だった。 「ふぅ〜」 美味しい昼食に満たされた俺と、俺のハラ… ちゃぶ台を前にして、そのまま仰向けに倒れこむ このまま眠ったら、…

Summer Breeze 4

「とっても美味しかったよ ベルダンディー」 「ありがとうございます♪」 お昼に素麺を頂いた螢一は、満足そうにしている その姿を見ているベルダンディーも幸せそうだ。 「螢一さんっ お茶です♪」 「ありがとう」 冷たい氷の入ったグラスを満たすのは 夏の定…

Summer Breeze 3

不思議にとても無防備で、その子猫はヴェルスパーの元 顔を近づけて、匂いを嗅ぎ「にゃお」とまた鳴いた。 ヴェルスパーは無意識に、子猫の毛つくろいをする それは猫の本能か、それとも母性の表れなのか… 「まぁ♪」 「へぇ〜」 「うわ〜」 「やっぱりオマエ…

Summer Breeze 2

「ただいま帰りました〜お客さまをお連れしたのよ」 外出前、玄関先に水撒きをしたのだが、いまではすっかり 乾いていて、それでも幾分涼しさは残っていた。 ベルダンディーは買い物籠と子猫を抱きかかえて框に入る その声を逸早く察知したのはスクルドだっ…