ああっ女神さまっ〜新章〜

I just call to say,I thank you.

言葉に出してみれば、そんな感じなんだろうと
俺は感謝の思いで充足された心を素直に
受け止めていた。
二人で歩いて来た道程は、それ自体が奇跡の
道程のように、俺達の前に敷かれていたんだ。


長い春。 それはとても長い春のように
二人の季節を彩って行く。
変わる季節を楽しみながら、年中行事を
新しい驚きに変えながら、それでもいつも
桜色をした花びらは、二人の世界を包んだ。


「螢一さんっ あなたは幸せですか?」
ふとベルダンディーが言った言葉の意味を
平凡な日常に溶け込ませるかのようにして
俺は聞き流していたんだろうか。
「ああ、とても幸せだよ」
と俺、それは他愛もない、いつもの会話と
同じだと思っていた。


俺は本当に幸せで、ベルダンディー達と
出会う前の自分の事を思うと、とても
居た堪れなくなってしまう。
もし、今の俺に彼女達のような力が
十分の一、百分の一でもあれば
俺は多分、俺のような誰かを助けたいと
心から思った。


良くも悪くも、それが現実になろうとは
まったく考えていなかったんだ。




ある日の事、神妙な面持ちでウルドが俺の
部屋をノックしてきた。
ウルドがノックだなんて、珍しい事もあるんだ
そんな事を思いながら、俺は扉を開けた。
「どうしたんだ?何かあったのかい?」
俺は、何時も通りの慌しい喧騒があって
何かの画策に利用されるのだろうと思った。
「螢一…ちょっと話しがあるのよ。居間に来て」


ウルドに促されて行った居間には
ベルダンディースクルドが先に居た。
そして彼女達は、それぞれの神装に着替えていた。
よく見れば、ウルドもそうであった。


「螢一さんっ あの、私達…」
と、そこまで言って、その続きが言えない
ベルダンディーに代わって、ウルドが
「あのね螢一。私達、帰らなきゃならないから」
そう言ったきり、横を向いてしまった。


どう言う事だ?帰るって…君達はずっと
地上界に居るんじゃないのか?
ベルダンディー…君はどうなの?と俺は
彼女を見詰めたが、ベルダンディーは下を向いて
しまって、その表情を掴む事は出来なかった。
まさか、また天上界に異変が?
それとも、契約の不履行が成されたのか?
ここ、地上界に、そして俺の傍に居れない理由が
見つからない。だから俺は
「何か事件でもあったのかい?」
ベルダンディーに優しく問うた。


ベルダンディーは、下を向いていた顔を上げて
そして静かに言葉を綴る。
「私達、女神は、人を愛する事。そして困っている
方の力になってあげる事が、仕事です。螢一さんの
思いは、天上界で認められ、その願いを成就しました
そして今、螢一さんっは、とても幸福に満ち溢れて
見事に願いは達成したのです」
ベルダンディーの瞳が潤んでいる。かすかに震える
その口元から、さらに言葉が綴られる。
「…螢一さんっの思い、願い…そして愛情は
どんなに時間を経ても失われる事がありません
私達、時の守護神が人々に願い続けた事、それが
螢一さんっの願いと重なり、この世界を少しですが
とても良き物に変えれたと思います。私が螢一さんと
螢一さんっと......」
その後の言葉が途切れる。
ベルダンディー!俺は、君と…」
俺はとっさに彼女をかばう様に、言葉を重ねるが
ベルダンディーはそれを遮り、言葉を続けた。
「螢一さんっと暮らした数年の日々は、私にとって
かけがえのない宝石です。螢一さんっ、本当に
本当にありがとうございました」
そう云い終えて、彼女は深々と頭をさげた。


いつか、こんな日が来るとは思っていた。
でもそれは、遠い遠い未来の果で起こる事だと。
平凡な暮らしの中に、奇跡を埋没させて
必死で忘れようとしていたのだとも感じた。
俺は、女神さまっを、とても大切に扱っていた。
女神さまっに恋した男の結末は、歴史が示すように
何時の世でも悲惨な結末が待っていたから、俺も
もしかすると、そのような事になるんじゃないかと
切なく思った時期もあったから。
淡い恋心から、少しずつであるが、相思相愛の
二人になって、いずれは…と人間的に、でもそれは
人間と俺としては、ごく当たり前の考え方で
当然いつかはそうなると、ぼんやり思っていた。


女神さまっとの結婚…そんな事、出来る訳無い。
彼女達の仕事は、人間のように子孫を残し
繁栄させる事ではないのだ。
ましてや異世界の住人同士、恋する事はあっても
そこまでは行かない…そして出来ない。
不可能かどうかは、俺には分からない。でも
現時点では、確実に無理なのだと、俺は悟った。


「そうか…それは俺も同じだよ。ベルダンディー
今迄、本当にありがとう。そしてウルド、スクルド
本当に楽しかったよ」
素直に言えた。言い換えれば、彼女達にとても感謝して
いる自分が、そこに居たんだ。
「こんな俺でも、少しは君たちの力になれたんだろうか?
もしかしたら、とてつもない足手纏いだったんだろうな
でも、本当に感謝しているんだ。君達に出会わなかったら
多分俺は、何もしない下らない男になってたと思う」


「そんな事はありませんよ。螢一さんっは最初から
とても素晴らしい方でした。この世界の事を知らない
私に、それはとても親切にしてくれたんだもの」
「そうだよ螢一、あんたは良いヤツさ。この世界じゃ
珍しいかもしれないのよ」
「螢一…たくさん我がまま言ってゴメンネ。でも
嬉しかった事がたくさんあった。素敵な事も見付けられた
それは螢一が居たからなんだよ」
女神たちは、それぞれ思いを語ってくれた。


「ありがとう…でも、これからちょっと寂しくなるね」
俺が頼りない言葉を言うと
「大丈夫ですよ、螢一さんっ 私達はいつでもあなたの
傍にいますもの。感じてください。心の中にあるものを」
ベルダンディーは、その笑顔を見せて
「私達女神は、出会った方を決して忘れませんっ」
それは女神さまっの言葉。そして、俺達の別れの言葉だった。



ああっ女神さまっ〜新章〜」


by belldan Goddess Life.