小さな羽

師走だってのに、ポカンと空いた休みの日に
部屋を掃除して、やる事がなくなった。
「螢一さんっ お茶を淹れますね」
ベルダンディーの優しい響き、その声に
この平和な休日が、とても大切な時間だと感じた。


場所を居間に移して、俺は淹れたての紅茶を飲む
茶葉のふくよかな香りと、贅沢な味わいの中
思わず出てくる言葉は「美味しいよ」なのだった。
それで彼女の笑顔が、とてもとても輝きだすので
俺も何だか幸せな気分になってしまう。
「幸せって伝播するんだよね」
「ええ、そうですよ」
部屋の空気が、一気に温まる感じがした。


俺は紅茶のおかわりを淹れてもらい、一口すすった。


ベルダンディーは、何をするでもなく俺の前に居て
始終にこやかな笑顔を俺にくれる。
そして、それから彼女が小さな声で歌いだす。


 


 小さな羽 小さな天使の羽
 飛べない今日を そんなに悲しまないで
 膨らんだ産毛に 風が纏う日が
 懐かしい記憶に 飾られるその日を
 夢見て 夢見て 翼を休めてる

 
 小さな羽 小さな天使の羽
 探しているのは きっと久遠のあした
 月の夜に そっと祈りささげて
 日の朝に そっと広げた翼に風が
 夢追う 夢追う 新しい世界に


 飛び立つ日が 小さな羽に
 宿るのよ あなたの心にも
 小さな羽 小さな天使の羽



ベルダンディーが歌を歌うのは、彼女が呼吸を
しているのと同じで、ごく自然な事だ。
俺たちは四六時中、一緒にいるのだが、それでも
こんな風にして、彼女の歌声を聞く事はあまりない。
「ね、もう一度歌ってよ もう一度聞きたいんだ」
「はいっ 螢一さんっ」
そして何度も聞いて、俺は完全にメロディーを覚えて
へたくそなギターで伴奏を付けてみる。


ふたり、思いを同じく共有したいからさ。



 夢追う 小さな羽
 新しい世界に
 飛び立つ日が
 あなたの心にも...



小さな羽。


by belldan Goddess Life.