水の妖精 5

河川敷、川のそばまで歩み来たスクルド達は
まず法術を使って、簡易ゲートを作成した。
「これで帰れるからねっ」
スクルドはシレナに微笑みながら言うと
彼女の両手をとってお別れをする。
「ごめんね、あたしのせいだね...でも、これで大丈夫だよ」
自分の両手をヨイヨイと振られながら、浮かない顔をして
シレナはつぶやいた。
「お姉ちゃん…でも、帰る場所がわからないよぉ」
確かに、ただ水のゲートを用意しただけでは、幼いシレナ
には戻れなかった。
依るべき道しるべがないと辿れないのだ。


日没の時間になって辺りは、西日が眩しい。
太陽が雲に架かる箇所が茜色に染まり、今にも隠れて
しまいそうだった。
南から吹いていた風が、その進路を西へと変更し温度が
徐々に下がって行くのを感じた。
河川敷の背の高い草が揺れている。


びゅー、と風音がした。


「あたし、眠い…」
シレナはけだるそうに、まぶたをこすった。
やがて足元も覚束無くなり、フラフラとしてきた。
「ダメよっ、もう少ししたら帰れるんだからっ!」
叱咤するスクルドの声も、耳元までしか届かない。
身体の力が抜けて、スクルドの胸元へとしな垂れかかって
今にも生気を無くしてしまいそうだ。


あたし…どうすればいいの?何も思い付かないよぉ
スクルドは泣きそうになった。
簡単な事だと思っていた。水の精霊なんだから、水のゲート
を使って、すぐに帰せると思っていた。
依り所が必要なんだ。でも、それが何か分からない。
このまま時間が過ぎて、そしてこの子は…死んじゃう
かもしれない。
とても嫌な考えだ。だけどそれは現実になるかもしれない。


日中の陽気から考えると、今吹く風はとても冷たく感じた。
抱き寄せるシレナの身体からも、暖かさが少しずつ消えて
行きそうだ。


「誰か…誰か、助けてよ〜!」
思わず心から出てきた言葉に、スクルドの天使である
ノーブル・スカーレットが呼応した。
「お願いっ!誰か、呼んできてっ!」
その思いに感応した天使は、すぐさま飛び立った。


ノーブル・スカーレットは、河川敷を超え、ジャンク屋の
方角へ向かって行った。



水の妖精 5



by belldan Goddess Life.



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途方に暮れてしまったスクルド…誰か、助けてっ!