水の妖精 7

滑るようにして事務所に入って来たノーブル・スカーレット
ヴェルスパー達に、目線で状況を伝えようと躍起になる。
それを逸早くキャッチしたのが、ランツェだった。
彼女はヴェルスパーを覗き込むと、哀願するような表情で
スカーレットの願いを聞くようにと、瞳を潤わせた。


「・・・・・・」
仙太郎が傍にいる今、迂闊に声は出せずにいる彼は
合図とも付かない頷きをした。


どうする…?スクルドの天使の表情から考えられる事は
多分、水のゲートに問題が発生したと言う事だ。
シレナを元の世界に帰せない。それはつまり彼女の生命を
危うくすると言う事と同意だった。
それどころか、セイレーン達の怒りがこの世界に充満して
関わる全ての者達に被害を与えるかもしれない。


しかし、どうする?何か手立ては無いのか?とヴェルスパー
は思案する。その時、件のタライに目が行く。
そうか…これの中に、辿るべき道標が隠されているのか。
分かった、これをスクルドの元へ届けてシレナを帰す。
それが出来なければ、全ては終わりだ...。


そんな中、事の状況を上手く掴めないでいる仙太郎は
ただオロオロするばかりだった。
スクルドは居ないし、何だか訳の分からない人達ばかりで。
と言っても、ひとりは猫だけど。
何かスクルドにとって、好くない状況が起こっているんじゃ
ないだろうかと、彼は思った。


そんな気持ちがヴェルスパー達と同調したのだろうか
事務所にいる全員と緊張感がシンクロし始めた。


今なら上手く行くかもしれない。ヴェルスパーはそう思い
猫に転生しても残っている、幾ばくかの法術を展開した。
「ウニャ!(秘儀、遠隔操作っ!)」



「えっえっ?なな…何でぇー!」
仙太郎は、自分の意思とは違って動き出した体を制御出来ず
ヴェルスパーの法術に操られて動き出した。
「か、体が勝手にー!」
水の入ったタライを持って、事務所を出て走り出した。
ジャンク屋の前には土手があり、そこから河川敷へと向かう
階段がある。仙太郎は、覚束ない足取りで上り、土手の
上まで上がると、その川の傍にスクルドと小さな女の子が
佇んでいるのを発見した。


スクルドー!大丈夫かー!」
大声で声かけてみた。しかし彼女からの返答は無い。
それにスクルドは酷く項垂れていて、ずっと下を向いていた
ので、もしかしたら聞こえなかったかもしれない。
心配になった仙太郎は、土手から川までの坂道を駆け出した
のだが、それがいけなかった。
「わっわっ!わー!」
今までヴェルスパーの法術によって操作されていた身体は
土手を越えた辺りで、その効果を失ってしまった。
下草に足を取られてしまった仙太郎は、そのまま身体を中に
舞う格好となる。
ドサッとそのまま倒れこんでしまった。
手にしていたタライの水は、全てあたりに撒き散らされて
空っぽになってしまったタライが、スクルドの前まで
転がって行った。



水の妖精 7

by belldan Goddess Life.