ホワイトディの贈り物

それは昨日の事、そう3月14日…


螢一さんっから頂いたステキなハーブティと一緒に、ある綴り券が
あったのです。
「わぁ、ありがとうございますっ 螢一さんっ」
私はそう言って、照れくさそうに笑う彼を見詰めながら
とても幸福な気持ちになったのは、言うまでもありません。


この世界で、こうして螢一さんっと出会えてそして、こんなに近くで
一緒に暮らせているだけで、他は何も要らない、のに…
嬉しくて嬉しくて、そう、この気持ちをどうやって表現するべきか
素直に素直に、言葉に出して紡ぐのがとっても良い方法だと思うけど
「さっそく淹れてきますねっ」
その幸福感をもっともっと味わっていたい。そんな気持ちなのか
それとも単なるワガママなのか、とても複雑な気持ちを悟られないよう
私は台所へ向かったのでした。


「うん、きっと気に入ると思うよ」
螢一さんっの優しい声が後ろから、まるで抱きしめられるようにして
私を包んでくれます。


紅茶はとても不思議な香りと共に、贈ってくれた人の思いにあふれて
湯気の中、そしてこの空間に神秘的な世界を構築して行くんですよね。
「うふふっ・・・」 嬉しい、それが本当に嬉しい。


紅茶の包みを開けた時に、同封されていた便箋がありました。
勿体無いから、後でゆっくりと読ませて頂こうかしら、とそのままに
して置いていたのですが、でも、気になって中を見たんです。


中には手書きの綴り券が入ってあって、そうバスの回数券のような
そんな切れ目があって。
「ふふっ なんだか楽しいのね」 そう言いながら私、何気なく
そこに書かれている言葉を読んでみたんです。


『森里螢一から、これはベルダンディー専用のお願い券であり他者が
利用する事は出来ません…あしからず』
そんな利用規定みたいな文章があって、少し笑ってしまった。


でも、お願い券? それはつまり、螢一さんっが私の言う事を券一枚
に付き一回聞いてくれるって事?
それがざっと10枚綴ってある…


私は…螢一さんっの願い事、たったひとつだけしか聞けなかった。


もちろん、それは仕事でもあったのだけれども…


「こんな私にでも…しかも10倍…」
もちろん数の問題では無かった。でも確実に螢一さんっは、私の事を
思ってくれているんだと分かる。
しかも私より10倍も多く…


それを考えると嬉しくて涙が出て来て止まらない。
それはそのまま嗚咽となり、押し殺そうとするのだけど、どうしても
止められない。
「螢一さんっ・・・うううっ...」



ぼんやりとTVの画面を観ていた。特に観たい番組があった訳じゃ
無いのだけど。
紅茶が出来上がる、ほんの少しの間の事だった。
CMが始まって、その中で流れていた歌を聴いた時に
台所から、ベルダンディーの泣声が聞こえた気がした。


不思議に思い、螢一は台所に声を掛けてみた。
ベルダンディー?」 返事は無い。
何か…ヤバイ事でも起きたのか?と螢一は身を起こし、台所へと
向かった。
襖を開ける。台所の中には、あのハーブティの香りがしていた。
ベルダンディーは?! すぐにその姿は発見出来たのだが、彼女は
うずくまって下を向いたままだ。
「ど、どうしたの?!何かあったのか!?怪我は?どこも痛くない?」
とりあえず心配事の全て…そんな感じで思う事を口に出してみたが
ベルダンディーは下を向いたままだった。


泣声を押し殺している? でも、どうして?


ベルダンディー・・・」 螢一は彼女の傍により声を掛けた。
「螢、一さんっ…」 ベルダンディーは俯いていた顔を上げる。
ベルダンディーは、そのまま螢一にもたれかかる様にして顔を埋めた。
螢一はすぐさま彼女を受け止め、抱きしめた。


ベルダンディーは手に綴り券を持っていて、それが自身の涙の所為で
半分ぼやけてしまっていた。
もちろんその券の中身、つまり内容は螢一が書いたのだが、水性ペン
を使用したのが裏目に出てしまったようだ。


もしかしたら…この綴り券が原因か?それとも紅茶を入れる際に
水に濡れてしまって…? だがそんな事でベルダンディーが泣き出す
筈は無い。と思う。
まさか…このツマラナイ綴り券が原因で、呆れ果てて泣いたとでも?
それは有り得なくもない…くっ...だが、本当の原因は?


ベルダンディー…その、気に入らなかったのだろうか?」
螢一は彼女が手に持っている綴り券を指差し苦笑した。
「そんな…いいえ、とっても嬉しくって…だから、私…」
ベルダンディーは首を振りながら答える。
「だったら…どうして?あ…そうか」
そうか、水に濡れて消えてしまったからなのかい、と螢一は尋ねる。
「いいえ、そうではなくて…」
そう言い掛けたベルダンディーを制して、螢一は続けて言った。
「大丈夫だよ、何度でも書いてあげるから、ね」
消えてしまったものは仕方ない、そう言って笑った螢一だった。


「え? 何度でも、ですか?」 きょとんとした表情で彼女が言った。
「ああ、何度でも、だよっ」 彼は優しく笑いながら言った。


贈り物。


by belldan Goddess Life.


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突貫作業だったけど、お題をくれたテイオーさんに感謝ですっ
やっつけなのに、微妙に長いな...w


そうだ、BGMにTV版ED「恋人同士」アクエリオンからは
「荒野のヒース」とか聴けば良いと思うな。