皐風

屋根より高い こいのぼり・・・


都会の片隅、小さな路地裏を通って行くと
不思議な空間が在る。
ぽっかり空いた空間、まるで時代から世界から取り残された
そんな空き地が在った。
小さな生き物達が憩う場所、それとも異世界の住人が通り道
として使用する場所なのか、それは分からない。


五月のある晴れた日、西からの心地良い風が吹いていた。


その空き地から見える空は、長方形に切り取られていて
窮屈な空から溜息が聞こえて来そうだ。それでも風は自在に
どんな場所でも吹き込んで来る。
その日、
風向きのせいで、
こいのぼりのしっぽだけが、四角い空にゆらゆらとそよいで
それを見ていた 小さな猫が首をかしげた。


(なんだろう・・・なんて大きな・・・尾っぽだろう)


その時急に空が黒くなり、一陣の突風が吹いたと思うと
華奢な箒にまたがった褐色の女の人が、空から降りて来た。
「あら〜ごめんね〜ネコちゃんっ!」
その人は、そう言って目を細めて笑った。
「にゃん!」
どうしてその人は、ボク達の言葉を知っているんだろう。
「にゃご!」
そう返事してみたら
「にゃっ!」
と返してくれた。


それからその人は、急ぎ足でどこかへ消えた。


もう一度空を見上げた。風向きが変わったせいなのか、尾っぽは
見えなくなって、窮屈そうな空だけが在った。


皐風。


by belldan Goddess Life.