謹賀新年2010.

気が付いたら、すでに除夜の鐘は鳴り終わっていた。
自室、そして布団の中にひとりで俺は天井を見詰めていた。
「ふぅ…ごほん…」
周囲を見渡してみた。いつも煩雑している部屋はすっかり
片付いていて、そして、小さな石油ストーブの上にある
ケトルから白い蒸気が立上っていた。


螢一は風邪を引いてしまっていた。


慌しい年末、ちょっと油断をしたせいで、せっかくの休みに
寝込んでしまっている、と言う訳だ。
失敗したなぁ、と悩んでいる。
特に、彼女には悪い事をしたなぁ、と自分を責めてみる。


それにしても、ずいぶん静かだ。
ウルドやスクルド達の喧騒がまるで聞こえない。
もしかして、耳をヤラレたんじゃないかな?と思った。
その時、部屋の障子が開いた。


「螢一さんっ 起きたんですねっ 良かったっ」
両手にはお盆があって、飲み薬と水が乗ってあった。
ベルダンディーは、安堵した表情を見せた。
「うん…ごほん…今起きた所なんだ」
布団から立ち上がろうとする螢一に
「あ、ダメですっ ちゃんと寝てなくちゃ」と、ベルダンディー
は言葉で制しながら、螢一の傍に行き、枕元にお盆を置いて
彼を寝かせ付けようとするのだった。


ベルダンディーの冷たい掌が、螢一の額に当たる。
冷たいけど、とても心地良いな、と彼は思う。
今まで水仕事をしていたのかな?とさらに考える。
本当に申し訳ないよな、と心で詫びた。


「あ、そうだ…明けましておめでとうございます、螢一さんっ」
正座し直して、ちゃんと三つ指を付いて新年の挨拶をする
女神ベルダンディーだった。
そうなんだね…寝ている間に年越ししちゃったんだね…
螢一は「うん、おめでとう ベルダンディー」と彼女に言う。
それを聞いて彼女は、にっこりと微笑むのだった。


この笑顔、本当に癒される。


「でも、静かだね」 螢一が言う。
「ええ、とっても」 ベルダンディーが答える。
「えっと…みんなは?」 螢一が続ける。
「姉さん達ですか? みんなお出掛けしましたよ」
ベルダンディーはそう告げると、小さな笑みを向けた。


ウルドは恒例の飲み会だか何だかで、猫実商店会の一行と
どこかでワイワイ騒いでいるんだろう。
スクルドは仙太郎君と初詣に向かったらしい。


「そう、なんだ…」
「ええ」


それからしばらく静寂が続く。
話の続きが出て来ない。
それに、ふたりきりって緊張感があって、どこか余所余所しく
なって来る。
螢一は何かないかと、再び天井を見詰めた。


「螢一さんっ」
額にベルダンディーの掌の冷たい感触があった。
「良かった…熱も大部下がって来たみたいですねっ」
「うん、今回はウルドの薬も効いたみたいだ…」
ふたりはクスクスと笑った。


そしてまた静寂が始まった。


チラリとベルダンディーを見る。
彼女、普段着の上からエプロンをしていた。
その姿は、まるで新妻のようにも見える。


だれの妻? ええと…それは…


「? 螢一さんっ…どうしたんですか?」
不思議そうに螢一の顔を覗き込むベルダンディー
「あ、いや…ナンデもナイです…」
まさか考え事を知られた、だなんて事は無いよな、と
螢一は焦ってしまう。


でも、去年も色々とあったよな。
あ…クリスマスもちゃんと出来なかった。
それに、プレゼントも…
何も出来てないや…


「ごめん、ベルダンディー…新年早々こんなで…」
布団に寝ながら詫びるのって、ちょっとアレだけど。
「その…俺って、何もしてあげれなかったなって…」
そう言うと螢一は、布団に顔を隠してしまった。


そして静寂。


何も返事が返って来ない事を、不安に思ったのか
布団からそっとベルダンディーの方を見た螢一が、見たものは。


by belldan Goddess Life.


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明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
みなさんにとって、素晴らしい1年でありますように。