音楽の束

言葉じゃ綴れないから歌にした
少しずつ声に出してそして
気が付けば街路で歌を歌っていた
夜空に響けと空に向かい張り上げた声は
風と共にどこへ旅立って行くんだろうか。


きっとどこにも届きはしないのに。


声が枯れて心が折れて歌が届かないのは
きっと誰かのせいだと世界を呪った
作り笑いの末に「食べる為だ」と嘯いた
鏡に映ったこの人は誰なの?と小さな声で
一晩中泣き続けたあの日。


それでも街路に立って空虚に手を伸ばして
空に届けと声を出した誰か誰かと。


08:02pm


「歌、好きなんだね」
男の人の声がした。
「ええ、何だかとっても懐かしい・・・」
綺麗な声の女の人も。
「・・・誰、ですか?」
顔を上げてふたりを見た私の目にはとても
信じられない光景があった。
私も一緒に歌って良いかしら、と女の人が言った。
だったら俺も伴奏でもしようと、男の人が続く。
持っていた譜面からスタンダードな曲を選んで
紡いでいく音楽の束。


重なる声重なる音が心地良くて
それは何気ない昔のラブソングだったけど
何か特別な何か新しいものを感じていた。


感じていた?私が?


心を閉ざしていた氷の扉が少し溶けた気がする
だってほら、私・・・どうしてこんなに泣いているの?


09:02pm


「楽しかったです ありがとう」
ふたりはそう言って街路の光の中へと消えて行く。
ありがとう・・・それは私の言葉だよ
もしかしたら誰かに届いたんだよね
もしかしたらあのふたりは・・・


紡いで行く音楽は光の束になる。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


「ふふっ・・・」
「どうしたの?ベルダンディー
「だって、あの娘ったら、生まれ変わってもちゃんと
歌を歌い続けているんですもの。それが嬉しくて」