6月の雨。

風に乗った雲がやがて緩やかに下降して山肌に触れると
今まで水蒸気だった水達が、その小さな姿を現して行く。
木々に当たる水滴が、やがて地表に降り、地面に中に姿を
消して行く時、周囲には何とも言えない穏やかな空気が漂う。
そしてまた、風はその空気をどこかへと運んで行くのだった。


湿った空気が漂う6月の他力本願寺の母屋にて。


朝の晴れ間が清清しかった時間も過ぎて、西の空からは暗雲が
その姿を現して来た、午後。低く垂れ込めた空は、今にも雨が
振り出しそうな予感と、太陽の光を遮られている不安とで
何とも言えない雰囲気を醸し出していた。
「雨が…」降りそうね、とベルダンディーは、てきぱきと洗濯物
を取り込んでいた。幾分乾いていないシーツもあったが、雨に
濡れてしまっては、元も子も無い。
洗濯籠に入れ、ちょうど縁側まで来た時に、最初の一粒が庭先の
石を叩いた。
間に合って良かったわ、とベルダンディーは呟く。
見上げた空には、銀色の筋が降りてくる。それはやがて、力強い
音と共に、激しく降り出して来た。


ペタリと縁側に座ったベルダンディーは、ぼんやりと雨の音を
聴いていた。まるでノイズのような雨音にでも一定のリズムが
あり、不思議と心地良いと思う。


銀の竪琴 金の雨音に
そっとふれた 時の狭間
巡り行く季節 巡り行く心に
その音色は やさしく響く


風に時を乗せて 愛は風に乗って
いつしかあなたの心に 届きますように。


口ずさむメロディは、雨音のリズムと共に周囲を包んで行く。
瞳を閉じて、何回も繰り返して歌った。
やがて西の空が明るくなって来る。
たくさん降り注いだ水の妖精たちも、地中に帰る頃なんだわ。
そしてまた、水蒸気となって、空まで駆け上がり、みんなで
集まって雲になるのね、とベルダンディーは優しく微笑んだ。


6月の雨。


by belldan Goddess Life.