ある日の出来事 1.

マリアベルがまだ小さい頃、お使いを頼まれての帰り道で
ある事件が起こったのを思い起こしていた。
駅前にはたくさんの自転車が放置してあって、駅に向かう人々が
足をとられてしまう。そこにある男性が、さらに一台の自転車を
停めた時の事だ。
強引に停めた自転車は他の自転車を押し倒す結果となる。
まるで将棋倒し、或いはドミノ崩しのような状態になってしまう。
バタバタと崩れ落ちて行く様を面白そうに呑気に見ていたマリアベル
が、その端で懸命に倒れる自転車を元通りにしようとしている少年
を発見した。
もしかしたら彼はただ通り縋りで、偶然倒れる自転車を受け止めた
のかも知れない。もしくは自分の自転車がそこにあったかも知れない。
だけどその少年は、とても真剣に元の状態へ戻そうと懸命だった。
「どうしたの?」
マリアベルはその少年に話し掛けた。
「じ、自転車が倒れそうなんだ・・・だからこうして支えてる」
少年はマリアベルの顔も見ないでそう言った。
遥か後方を見詰め、何とかしてこの自転車の群を直したいと、そう
思っていたのだろう。
「・・・手伝おうか?」
その少年の真剣な横顔を見て、ふと口に付いた言葉だった。
「大丈夫・・・それに君は女の子だし、危ないからここを離れて」
そう言うと少年はマリアベルの方を見て、ちょっと照れたような
仕草で「大丈夫、大丈夫」と二回続けて言った。


西の空に日が沈む、そんな時間帯だった。
そろそろ学校帰り、仕事帰りの人々が駅から此方へと向かって来る
時間だ。
「危ないから」と言ってマリアベルを促した少年は、マリアベル
ちゃんと後ろへさがっているのを確認した。
後は、大人の人がたくさん駅から降りて来るのを待って、手伝って
貰えば上手くいくと思っていた。


たくさんの人が駅から降りて来て、こちらへと向かって来る。
少年はちょっと緊張気味だったが、言葉を口に出した。
「自転車が倒れそうなんです・・・手伝ってくれませんかー」


ところが誰も少年の言葉を、まるで聞かなかったのようにして
通り過ぎて行く。
ある男性が少年を見て「邪魔だな」と悪態をついた。
それを機に、通り過ぎる人々は怪訝そうに少年を見たり、或いは
目を背けて邪魔くさそうに避けて通り過ぎて行く。


「あ・・・」
マリアベルは少年の腕がプルプルと震えているのを見付けた。
支えているのが、限界なんだと思った。


何とかしなくちゃ・・・あの少年を救いたいと、心から願った。


一陣の風が吹く。その風はみるみる姿を変えて大きな渦となった。
それは一瞬の出来事だった。現れた風は、一気に駅前の自転車を
呑み込んで消えて行った。


残された少年はキョトンとしている。
それを見ていたマリアベルもキョトンとしていた。
「あれ?って!ボクの自転車も無くなっているしー!!」
少年は慌てて探したが、すでに駅前は清冽されていた。
「あれ?・・・こんな事もあるのかなー」
マリアベルは事態が収束されたのを見て、ホッとしてた。


「これにて一件落着・・・?」
不思議そうにマリアベルは帰路に着いたのだった。


だが、家に着くなりママに呼び出されてしまった。


ある日の出来事 1.


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


「あたし、怒られちゃうのかな・・・」