未来への翼へ

スクルド姉さまっ 未来ってなぁに?」


自室にて愛読書を紐解く未来を司る女神スクルドの元へと
尋ねて来たのは、言うまでもない最愛の姉ベルダンディーの娘、
マリアベルだった。その突然の来訪者に驚いた様子でもなく、
ごく自然に声の方へと振り向いたスクルドの顔には、理知的な
眼鏡が掛けられていたのは、むしろ想定内の事だった。
眼鏡の淵を指先でつまんで掛けなおす仕草をしたスクルド
鷹揚にその問いに答えるのだった。


「未来とは・・・決定されていない、たくさんの事象の事よっ」


スクルドは思い返して見た。そう最愛の姉、女神ベルダンディー
の事だ。彼女は姉の過去の歴史を考えて、その膨大な能力と才能
そして天上界一の美貌と名声があった事、すなわち姉には輝かしい
未来が、その選択が得られる位置に居た事を昨日の様に思い出す。


それなのに最愛の姉は、事もあろうか地上界の人間と契約を交わし
この地上界に留まる事を選択したのだった。
確かにそれは「お助け女神事務所」の任務の筈だったのだが、
その時から姉の気持ちは決定していたのだろうと、今では推測が
出来る。出来るのだけど、たくさんの輝かしい未来の選択肢があり
それを反故してでも、あの男と結ばれる事を望んだ姉の気持ちは
現在でも完全に理解は出来ずにいる。


「決定されていない膨大な事象から、何かを選択する事・・・」


それはつまり、何かを選択し、何かを切り捨てる、と言う事だと
スクルドは思案する。選択は自由に任されている。それが神の決定
事項のひとつであり、大いなる慈悲そのものなのだと言う事を
スクルドは天上界で学んでいた。
天文学的数値、或いは不可思議なくらいの事象の中から、意識的に
ひとつだけを選び、決定する事は、とてつもない意志の力がいる。
勇気、と言っても良い。


姉は選んだのだ。
勇気を持って。


「それ故に、膨大な多くを捨て、ひとつだけを選ぶ事が未来へと
繋がる術になると思うのよ」


しかし思うに、選択されなかった多くの事象はどうなるのだろう。
忘却の海へと流されて行くそれらは、無駄に過ぎないのだろうか。
いや、そうではないと思う。
この世界に生きる全ての者に対して、与えられた事象は何一つも
無駄ではないと思う。
人の数だけ選択肢があり、決定があり、だからこそ世界は混沌から
秩序へと進化してきたのではないだろうか。


「つまり・・・未来とは『希望』そのものなのよっ」


スクルドはマリアベルの顔を見詰めながら、そう伝えたのだった。



「じ、じゃあ・・・スクルド姉さまが『キボウ』って事だよねっ!」
得心したマリアベルは、ありがと〜と言いながら部屋を出て行く。


その後姿を見送りながら、スクルドは思う。
そうじゃないわマリアベル・・・あなたこそ本当の『希望』なのよ。



未来への翼へ。


by belldan Goddess Life.


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もうすぐクリスマスですね〜