2月の朝 その6

二月も終わり三月になってしまった。
三月と言えばアレだよね、春だよね。
それなのに寒いし、花粉は舞い踊っているしで。


「やはりタイツはかかせないよな」
そう言いながら螢一、再度タイツを足に装着するのだった。
中々の出来栄え、と言うか、うむ、どこから見てもバレエダンサー
のようだな、とひとりごちる。
普段はベルダンディーしか使っていない姿見で全身をくまなく
チェックしてみた。
「うむ、やはり似合う・・・」
本当ならこの姿で街路を闊歩したい所だが、世間体ってものが
あるじゃないか、と螢一はその姿を思い浮かべてはニヤニヤと
不気味な笑みをこぼしていた。


話は二月のある日に遡るのだが、猫実工大大学院のアイドルと
言えば、このふたり、実に恰幅の良いと言うか、大男と言うか
田宮寅一と、大滝彦左衛門の両名は、敬愛する先輩であり、
自動車部の創設者でもある、藤見千尋女史のとある一言で、我に
返ったと言うか、何と言うか・・・


「あんたたち・・・ちょっと見ない内に太ったんじゃないの?」



「な、なんと!それは・・・」
狼狽する田宮は、隣にいた大滝に視線を投げ付けた。
「ま、まさか!俺たちに限って・・・」
サングラス越しの視線が泳いでいるのが手に取るように判る大滝の
狼狽を見て、千尋さんは、さらに言葉を続ける。


「いーや、あたしの目に狂いはないわよ!絶対太った!」



ガーン ガーン・・・


男の中の男・・・つまり漢(おとこ)しての矜持として、ふたりは
自身の肉体美には自信を持っていた。
日々鍛えあげられた肉体は、つまり日々のストイックさを表現し
崇高な精神を宿らせる器として機能していると自負もあった。


「毎日遊んでばかりいるからじゃないの?」
ちょっとは自重しなきゃね、と千尋さんの言葉は、まるで天の雷
の如くであった。


「わーん・・・」
ふたりは、まるでいじめっ子に苛められた小学生のような声を
あげて、泣いてワールウインドを後にしたのだった。



2月の朝 その6


by belldan Goddess Life.


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もう3月だよ・・・寒いよ・・・