ああっ茜色の...

時折、ガサリと音がする
多分庭の木に降り積もった雪が、下に落ちた音だろう
森里螢一は、読みかけの本から目を離そうとはぜず
タツの中で、その音だけを楽しんだ。


そう、外は雪が降っている。


雪という物は、とても不思議なものだ、と彼は思う
全ての物をその白色で包んでしまうばかりか、音までも
吸収してしまうからだ。


パサッとページをめくる音、ストーブの上に置いた
ケトルから湯気が立ち上がる音、そして…


そして、彼の目の前には女神さまっが居る。
女神さまっは、熱心に編み物をしている
とても楽しそうに、とても安心した面持ちで彼の前に居る。


この静けさ、この暖かい空間はいったい何だろうと思う
ふと、ストーブの灯りを見た。
茜色の、その温もりは、まるで現在の象徴なのか?
それからまた彼は、本に目を落とすのだった。






「お茶が冷めてしまったみたいですね」
ベルダンディーの言葉に、何故だか夢から覚めてしまった
感覚を覚えてしまったのはなぜだろう?

「あ…」
「淹れ変えますね♪」

彼女はそう言うと、コタツの上にあった俺の湯飲みを取り
台所まで向かう
ベルダンディーが立ち上がり、部屋を出て行くその刹那に
風がふんわりと香った


冬なのに…まるで春の野に居るような…


いつも感じる事なんだ、この現実は本物なのだろうか?と
夢から覚めても、まだ夢の世界を邂逅しているような
まどろみの海に浮かんでいるような浮遊感を感じてしまう


「お待たせしました♪」
おぼんに載せた、俺の湯飲みと、それからお茶菓子を持って
ベルダンディーが戻って来た。
湯飲みは湯煎して来てくれたんだろう、と思った
それはいつもの事だけど、とても嬉しい気持ちになる。


「ありがとう、ベルダンディー
暖かいお茶、そしてその気持ちに感謝を込めて言う


彼女は、微笑み、そして編み掛けの編み物に手をやる
俺と言えば、読みかけの本のページを、パラリと捲った。



 冬のある日、森里家で…  by belldan Goddess Life.