Summer Breeze 5

夏の影が濃くなる…


小高い丘とは言え、坂道は自転車にとってはキツイ
その坂を、一台のBMXが颯爽と風を切って上がって来た。
「さすがに…夏場はキツイなぁ」
フゥフゥと息を切らせて、その自転車は坂を進む。
ようやくお寺の正門に辿りついたその者は、額の汗をハンカチで
拭うと、少しの安堵と、少しの不安が心に去来した。
スクルド…居ると良いのだけど…」
アポ無しの訪問…言い換えればそれは、サプライズの為の演出
だけど…ね。
「ごめんくださ〜い」
正門を抜け、境内を横切り母屋へ向かう彼の名は川西仙太郎だ。
彼は恋人…と言うにはちょっと心許ないが、最愛の女の子に会う為
一生懸命坂を上って来た、という訳だった。


玄関先に回り、もう一度声を掛けてみた。
すると縁側から彼女のお姉さんの声が聞こえた
「仙太郎君かしら?どうぞ入ってらっしゃいな」
ベルダンディーさんの声に従って、縁側に回り込むと
螢一さんとベルダンディーさんが居た。
スクルドは部屋に居るから、呼んでみますね」


ベルダンディーさんは、スクルドの部屋に声を掛けてくれた
それにしても、螢一さんを膝枕して、とても嬉しそうに見える
俺もスクルドとこんな仲になれたらなぁ…


「あらあら…仙太郎君、すごい汗かいてわね」
ちょっと待ってて、とベルダンディーさんは、螢一さんの頭を
そっと枕に戻して、厨に向かった。
でも、とても名残惜しそうな、そんな顔をしてて…


「え〜え〜!仙太郎が来たの〜!」
と言ってスクルドが登場した
「ごめんね、急に来ちゃったよ」
「…別に…良いのよ あたしだって…」
あたしだって?何だろう…そんな事を言われてもなぁ
「あのさ、スクルド…これからちょっと出掛けない?」
「え?ど、どこへ行くの?」
「君に見せたい物があるんだ」
「・・・ちょ、ちょっと待ってて!」
慌てて自室へ飛び込んだスクルドだった。
多分、少しおめかしの時間が欲しかったのだろうな。


ベルダンディーさんが戻ってきた
「はい、仙太郎君 おしぼりよ」
「あ、ありがとうございます!」
冷たいおしぼりを貰って、顔中、首筋の汗を拭う
これはとても気持ちが良かった。
程なくしてスクルドが部屋から出てきた
「お待たせ〜あれ?」
「ああ、お姉さんにおしぼりを貰ったんだ」
「そ、そうなの…良かったわね…」
ん?どうしたんだろう…気のせいかな?


「じゃあベルダンディーさん、ありがとうございました」
「はい、いってらっしゃい」
「おねーさまっ 行ってきます〜」
二人は正門へと足を進めて行った。


蝉時雨が止むと、とたんに辺りは静まり返る
静寂した境内にあるのは、とても贅沢な時間だ。
ベルダンディーは、安らかに眠る最愛の人のそばで
彼の寝顔をしばらく眺めていた。
それから、少し自分も眠たくなったのだろうか
螢一のそばで眠ってしまった。



Summer Breeze 5.


by belldan Goddess Life.