Summer Breeze 11

この世界のどこかの、それは小さな世界に光が満ちる
その光は、大きな光から分光したものだった。
漫然としたカオスのような空間に、光と影のコントラストが
そしてそれは、新しい始まり...。



「おはようございます 螢一さんっ」
安らかな寝顔が、笑顔に変わり、彼女は寝ている俺に
そう告げる。
「おはよう ベルダンディー
何かくすぐったい気もする…でも、言葉は同じ
いつもの挨拶なんだ。


彼女は同じ布団に居る俺を抱きしめると
「あの…螢一さん ずっと傍に居てくださいね」
何だか聞き覚えのあるセリフだった。ああ、そうか…
俺が初めてベルダンディーに会って、そして言った言葉だ。
それはそのまま願い事になり、契約され受理されて
今日に至る訳だが…
「もちろんさ 俺からもお願いしたいよ」
そんな事を言って、思い出し笑いをしてしまった。
「どうされたんですか?」
「あ、いや…ベルダンディーが今言った言葉ってね…」
俺が君と出会った時に言った言葉なんだよな、って言ったら
彼女もクスクス笑い出した。
「そうですね…ふふっ」


ベルダンディーはとても幸福そうで、それは何時もなのだけど
何時もとは違う…充足感に満たされていて、そして俺も同じだった。


ベルダンディーは朝の支度をすべく、布団から起き上がり
厨に向った。
少しの間でも離れるのが惜しい…そんな気持ちのこもったキスが
前とは違う…
何かが変わる時、それは希望と同じ位の虚無感も生じて来るんだ。
「大人になった…って事?」
俺は、そんな事を考える自分自身をシニカルに省みるのだが
今現時点で、最高の気分なのは否定出来ないと思うと
自然に笑みが浮かんでくるんだ。


多分、ウルドやスクルドに見られたら「気持ち悪いっ!」と
言われてしまうだろうな...



で、そのスクルドに、ふたりの仲が進展したのを
知られてしまった。
もちろん吹聴しまくったのは、ウルドだ。
それで・・・森里家のボンバーガールと言えばスクルドの事
「ムキャー!何でよ〜!ちょっと螢一っ!あんたっ!」と
ありとあらゆる爆弾が、俺をめがけて炸裂してしまうんだと
思うと、実に虚脱感が先行して、気が滅入る。


だが実際は違ってた…これには俺も驚いた。


「…仕方ないわねぇ せっかく阻止しようと思ったんだけど」
スクルドは、あり得ない位に真剣な顔で
「物理的接触があったんだもん…ここまで進展しちゃ・・・」
もう阻止とか、そう言う次元じゃ無くなったわ、と言った。
俺は不思議な気持ちになってスクルドに尋ねた
「じゃあ、俺達の仲を認めてくれるって訳なんだね」
「み、認めたくなんかないわよっ!だけどね…」
スクルドがしょんぼりする。それを見てウルドが言葉を続ける。


「だけどね、螢一…まぁ取りあえず、おめでとうって所かな」
そう言って、さらにウルドは
ベルダンディーは女神、あんたは人間…それは分かるよね」
「ああ」
俺は相槌を打つ。
「さらに言うと、ベルダンディーはノルンって存在なのよね」
「うん、聞いたよ」
「ノルンってのは、時の守護神なのよね」
「うん、知ってる」
どうしてウルドは知っている事を言うのだろうかと、俺は
考えるが、答えは見つからない。


「ここからが重要よっ!ノルンはあたしとスクルドも同じ」
「ああ、知ってる」
「と、言う事はノルンと出来ちゃったら、あたし達とも…」
そこまで聞いて俺は
「え?ちょ、ちょっと待てっ!」
俺は漠然と想像をめぐらせる…いや待てっ!落ち着けっ俺っ!


「あのねぇ、あんたの想像している事はお見通しなのよね」
「あ、あは…あははは…」
「ホント バカねぇ…」
「まったくバカじゃないの!」
ウルドとスクルドは声を揃えて言う。言い過ぎじゃないのか?


「螢一っ ちゃんと聞いてよね…」
ウルドは、ことさら真剣に俺を見詰めて
「大事な事…私たちの本来の姿を教えるわ…」


空気が変わった気がした。
夏には相応しくない、凍るようなそんな気配がしたんだ。



Summer Breeze 11.


by belldan Goddess Life.