Summer Breeze EX.

「あ〜やっぱり良いわねぇ〜」
冷えたビール、ビーチパラソルとビーチベッド
そこに横たわるのは何とも妖艶な褐色の美女だ。
「ウルドはどこ行ってもお酒ばっかりっ!」
可愛いフリルの付いた黄色のワンピース水着の
美少女がそれを見て憤慨している。
「姉さん、スクルド、海って良いわよね〜」
水色の清楚でシンプルなワンピース水着の美女が
夏の日差しを手の甲で遮りながら言った。


照りつける太陽、白い砂浜そして、三人の女神たち
そう、俺達はやっとの事で海に来たんだ。
とは言うものの、お盆を過ぎた海だから、人気は無い
それに海にはクラゲも氾濫しているみたいだ。
別に俺はそんなに泳げないので、こうして海を見ている
それだけで良いのだが、女神たちは一向に気にしてない。
俺は泳ぎたくて海に来たんじゃない。俺はその、彼女と
二人きりになりたかった…それだけ。それだけなのに
とても悔やまれる。と言うか、これも宿命だったとしたら
神を恨むべきか、それとも自分を恨むべきか悩む所だが
女神さまっを前にして、それは言えないだろうと思った。


ビーチパラソルをふたつ用意して良かったと思った。
ひとつはウルドが独占している。だからもうひとつを
色んな備品置き場にした。そしてそれが俺の居場所だ。
俺は持ってきたクーラーボックスから冷えた麦茶を出して
簡易コップに注いで飲んだ。
浅瀬でベルダンディースクルドが水かけっこをして
遊んでいる。ウルドは相変わらず飲んだ暮れていた。
パラソルのお蔭で影があるのは嬉しいが、そこはやはり
日中に日差しだ。とても暑い…。
拭っても拭っても出てくる汗に対抗しようとタオルで
拭くのだが、どうしても先手を取られてしまう。
当たり前の事だが、だが俺は実際やっている。
「暑い・・・」俺が独り言のように言うと
「だったら海に入ってくれば良いのに〜」とウルドが
眠そうに言った。
「ああ、それは良案だな。だけど俺には2つ理由がある」
「2つ?言って見なさいよ」
「ひとつは、あまり泳げない事。ふたつ目はクラゲが
とても気になる…」
「あら?それだけ?なぁ〜んだ…もっと違う事と思った」
ウルドはニヤニヤして、そう言った。
「ち、違う事って何だよソレ・・・」
フフン〜とにやけ笑をして答えてくれない。
「ウルド…また変な事、考えてるだろ!」
「変な事じゃない、普通の事よ〜ん」
「だったら教えろよっ」
俺はどうしてだかムキになっていた。


「螢一さ〜んっ 一緒に泳ぎませんか?」
水色の水着を着た、それは水の妖精か?と見間違える…と
彼女は女神さまっだ。それも最上級の。
「あ、ああ…今行くよ」
色んな理由を考えて、なるべく海には入らないようにしてた
俺の理論なんか、彼女の前ではただの言い訳だった。
「ほら、あたしの言ってる正規の理由が呼んでるわよっ」
正規の理由って…そりゃまぁ、俺はベルダンディーの誘いを
断れないし、それに…その、彼女の姿があまりにも
魅力的なんで、近寄ると何かが変化して来るんだよ。
そんな事を思っているとウルドは
「それが健康的な男子なのよ!いいじゃん!それで!」
何が良いのだが分からなくも無いが、それでも困るものは
困るんだよな...。


以前ならスクルドが「螢一はおねーさまに近寄っちゃダメっ」
とか言って、防波線を張っていたのだが、最近は違った。
「螢一も早く〜」とか言って呼んでるし…
俺は心の中で、まず数を数えた。それでもダメなら流体力学
理論を頭の中で再構築しようと思った。
だがそれも空しく空回りをするだけだった。


「どうしたんですか?螢一さんっ」
「あ、いや…あはは」
「あ、ちょうど良かったわ スクルド休憩にしましょうか」
ベルダンディーは俺の傍に来て、何かを悟ったのか
スクルドを呼んで、パラソルの下で休憩しようとする。
俺に少しの安堵がもたらされた。
ベルダンディーはクーラーボックスから冷えた麦茶を出し
三人分用意してくれた。
「ありがとーおねーさまっ」
「ありがとう ベルダンディー
「姉さんは…そっちの方が良いのね」
「ええ、そうよ〜」
そう言って空になったビール缶を振って、ベルダンディーから
冷えたビールを受け取った。


女神さまっと暮らす男って、そりゃ傍目から見りゃ
「何て羨ましいんだよっ!」とか思うだろうが
これはこれで大変なんだよな、と俺はいつも思う。
俺たちの暮らしは、そりゃとても平凡だし、それに質素だと
思う。まぁ、時々異世界からの闖入者が来て、何かと問題を
出してくるが、それもまぁご愛嬌だ。


「螢一さんっ 後でふたりだけで泳ぎましょうね」
ベルダンディーは俺の耳元で囁いた。
俺は黙って頷いた。


夏はまだ続いている...



Summer Breeze EX.


by belldan Goddess Life.