Solid Black

何時の間にか、その小さき生き物は姿を消した。
まどろみの中、最後の言葉、最後の思いを聞いたような
気がしたヴェルスパーは、その不思議な感覚に戸惑った。


森里家の縁側に猫がいる。ひとつは黒い猫、額に紋章のある。
そして最近迷い込んで(それは女神の招いたお客様でもあるが)
来た、小さな黒い猫が、夏の、ある日を境に消えてしまった。
消えた・・・その言葉が適切なのかどうかは別として
それは空間にかき消されるかのように消滅したのだった。
ヴェルスパーはその者を、同じ同属、つまり猫として感知し
ごく自然に振舞っていた。それは言うなれば正しいのだが...
「あんたがイジメたからよ〜」
ウルドは彼を謗った。
「あたし…もっと遊べばよかったかなぁ・・・」
スクルドは急に居なくなった可愛い動物に対して悲しんだ。
「本当に不思議ですね・・・でも、帰ったのね」
ベルダンディーはきっと家路に着いたのね、と考えた。


「だから、本当に消えたんだってばっ!」
ヴェルスパーの抗議は、却下され、認証された。
夏の日の、不思議な出来事・・・不思議な出来事は森里家の
年中事業とも言えなくないが、よりによってベルダンディー
螢一の進展があった夏の出来事としては、いささか妙な気もする。
しかし時と共に、その事象はみんなの記憶の断片となり
そして忘れ去られて行くのだった。




世界は生まれ、構築され、円熟し、やがて衰弱し消えて行く。
思いは物質化され姿を持ち、そこに意思が、魂が宿る。


人と女神との恋、そこから発展した愛の中に世界は作られ
この宇宙の中に、それは存在した。
作られた世界は、初め混沌としカオスの中で産声を上げ
光と影のコントラストが生まれ、秩序が形成されて行く。
その光に、意思が、意味が生まれ、女神は光を分光させた。


新しい命の誕生であった・・・。


同じくして、地上界に生きるふたりの思いと行いにより
その実情を、それはまるでトレースするかのような変化が
訪れる。
女神は、懐妊した。
しかしそれは、人の生理とは違う動きがある。
女神の懐妊とは、言うなれば光を分光する、と言う事なのだ。
その光は、時間の経過と共に生命の姿となって現れる。
それは幾分先の事だが、喜ばしい事であった。


Solid Black.


by belldan Goddess Life.