Solid Black 1.

朝にメロディーがあるとしたら それはきっと
君に良く似た歌だと思った。
東の空から進軍してくる光の軍団に抗える部隊は無い
遮るカーテン越しに、それらは容赦無く訪れる
俺の朦朧とした頭にも、その光は届き、目覚めの時を
告げるのだった。


傍らに寝ている筈の愛しい彼女の姿は無かった...


「いつも早いのな…」
布団から起き上がり、両手を伸ばしてみた。
思い切り深呼吸してみた。どこからか良い匂いがして
俺の鼻腔を快くくすぐるのだ。
ベルダンディーが朝の支度をしている。それは何時もの事
だけど、いつもとても嬉しく思う。

歌が聴こえて来る その歌には安らぎがある。
紡ぎだすメロディーと言葉に、神秘的な意味が含まれる。
彼女の歌・・・それは女神の歌だ。

「おはようございますっ 螢一さんっ」
襖を開けて、眩い光が入って来た。もっともそれは
神々しい女神の微笑なのだが。
「おはよう ベルダンディー
いつもの朝、いつもの風景、いつもの…


窓を開け放したら、風がカーテンを揺する
君の髪も、エプロンの裾も揺らしていった。
いつか見た陽だまりに浮かぶ埃がキラキラ光り
それがまるで空高くまで続いていそうで、手を差し伸べたら
もしかしたら俺も、その高みへと誘われるのだろうかと
幼い頃、考えた事がある。
「朝ごはん 出来ましたよ」
傍らで微笑む女神はそう告げると、みんなのティールームへ
俺を誘うのだった。


これがいつもの朝の風景、ただ以前と少し違うのは
俺がちょっと大胆になった…って所だろうか。


どうして電話って、こうも突然鳴り響くのだろうか
朝食を済ませ、一息ついた所で電話が鳴った。
ちょうどみんなのティールームへと向かう途中のウルドが
電話に出た。
「はぁい、森里でっす」
その眠そうな声は、聞いている者まで眠りに誘いそうだが
それはまぁ、置いといて
「あら、ペイオース?どうしたのよ、こんな朝から」
「朝から…そうですわね でもね一大事なのですのよ!」
「一大事って…大袈裟ねぇ」
「大袈裟にもなりますわよ!あなた達ノルンの仕業ですもの!」
「仕業って…随分な言い方ね!」


ペイオースが言うには、ユグドラシルから観測していた
ある宇宙空間に、小さな空間が生まれ、それが世界を形成した
という事だった。そんな力は一部の神属、魔属を除いて
ノルン達にしか出来ない芸当なのだ。
混沌としていた世界も、秩序が生まれ、新しい生命が生まれた
それをペイオースがノルン達に知らせた、という訳だ。


「で、いったい誰ですの?まさか、あなたが・・・」
「お〜言ってくれるわねっ!もしあたしだったら?」
「そ、そんな事は・・・有り得ませんわよねぇ?」
「ふふん、有り得るかもしれないわよ?」
「わ、わたくし、ウルドと押し問答する為に連絡したんじゃ
ありませんわよっ!ベルダンディーと森里さんでしょ?」
「お〜!ご名答!さすがはペイオースだわ」


喧々諤々と長電話は続いた。でもそれは隠し切れない嬉しさと
喜びがあったからこその、長話なのだ。
ようやく電話を切ったウルドが、みんなのティールームへ来た。
「あのさ、もう聞いていたわよね?ペイオースからだったの」
そしてウルドはペイオースからの伝言をベルダンディーに話す。
「詳しい事は、あっちで聞いてね。ともかく天上界へ行きましょう」
凄く端折ってませんか?と俺はウルドに尋ねたかったが
心当たりもあったので、少し聞き辛い気持ちだった。
「螢一さんっ あの、私・・・」
「うん、大丈夫だよ俺は…行く必要があるんだろ?」
「ええ、そうなんです。ですが・・・」
「それは俺も同じ気持ちさ…でもさ、ちゃんと帰って来るんだろ?」
「はいっ!もう絶対離れたくない…って、あ…私ったら」


ウルドが囃し立てる、俺とベルダンディーは真っ赤になってしまう。
でも、ほら…ちゃんと心は通じているんだと思うと
少し強くなった気がする。
「詳しい事は帰ってから報告するわね、おとうさん!」
「な、なんだよソレ?冗談はやめろよウルド!」
「ま〜ま〜落ち着いて 螢一は待ってりゃいいのよ」
「・・・待つ事しか出来ないんだから仕方ないよ」
俺が悔しく思っていると
「螢一さんっ きっと素敵な報告が出来ると思います♪」
「え?あ…うん!分かった、待ってるよ」
「じゃあ、行って来ますね」


こうしてベルダンディーとウルドはゲートから天上界へ向かった。
留守番として俺とスクルドが残った訳だが、何にしても俺は
今から職場である千尋さんの店 ワールウインドへ行かなきゃ...
相変わらず慌ただしいな、とは思うが、これもまた日常の
いつもの風景なんだと簡単に考えていた。



Solid Black 1.


by belldan Goddess Life.