Solid Black 2.

夜の夢、カオスの見る夢はいつだって
焦燥感と孤独感で杯を満たしていた。
この世界には、月もなく星もなくて
でも、ただひとつの扉だけがあった。
それは途切れ途切れ聴こえて来る
チェロの練習曲みたいな音楽と
反復する音が織り成す単純で複雑なメロディ。


やがて歌が聞こえて来た。


小さな暗闇の小さなため息みたいな存在は
歌に光に抗えるはずもなく、その身を隠して
扉の外へと救いを求めて、消えて行った。


帰る場所がわからなくなる・・・


不安と哀しみは少しずつ膨らんでいく。
そしてそれは深く想念に刻まれていく。



 
 スクルドはとても慌てていた。
「どーしてあたしだけ残してっ!」
姉二人が先に天上界に行ってしまったのを嘆いていた。
「それは仕方ないだろ スクルドには約束があったんだろ?」
仕事から帰ってきて、スクルドのいきなりの先制パンチみたいな
不満を聞きながら俺はスクルドを慰めていた。
「うん、仙太郎君と約束してたから…でもっ!」
でも、嫌だとスクルドは言う。そして
「だって、おねーさまっの大事な用事なんだもんっ」
あたしだって見に行きたかった、とため息をついた。


とにかくTVは見放題だし、少しは良い所もあるだろ、と
俺は彼女に説明した。「まぁ、それは・・・」と
スクルドもチャンネルを変えながら納得したようだ。
俺は厨に行き、冷蔵庫から冷えた麦茶の入ったポットを
出して、コップに注ぎ飲んだ。
「急だったもんな…やはり何もないか…」
もしかしたら何か食べ物はあるかな?と期待して開けた
冷蔵庫だったが、調理されている物はない。
「作るしかないか…」
冷凍庫を開けるとアイスクリームが入ってあった。
スクルド〜アイスあるけど、食べるか?」
俺はスクルドに声をかけて見た
「あ、食べる〜!」と返事が返ってきた。


カップアイスとスプーン、麦茶の入ったコップを持って
みんなのティールームへ戻る。
「ほれ、アイスだ」
「ん、サンキュー」
TVを観ているスクルドは、俺のほうも見ないで
アイスを受け取り食べ出した。


カップ麺もなかったよな、そんな物、最近食べて無いしな
買いに行くしかないか、と俺は思い
「ちょっと買い物に出掛けるから、留守番頼むな」
スクルドに言ったが、彼女はこっちも向かずに
「はいはい、行ってらっしゃい」
とTVに夢中だった。
まぁ、これはこれで良い事だと思った。でも、もしかしたら
淋しさを紛らわす手立てとしての所作なのかもしれない。


玄関でスニーカを履き、縁側を回って裏のバイク置き場に
行く際、縁側で寝ているヴェルスパーを見かけた。
「ヴェル…寝ているのか」
声をかけようと思って止めた。そのままバイク置き場まで
行き、バイクに乗って猫実商店街に向かった。


そう言えば、いつだったっけ…ベルダンディーが連れて来た
あの小さな黒い猫…突然消えてしまったのだが、あいつは
ただの迷い猫だったのかな?それとも飼い主が現れて
そっと連れ去ってしまったのか...


騒がしい日々が普通だったのに、ベルダンディーが居なく
なると、どうしてこんなに静かなんだ?とか、色々考えては
出口の無い迷宮を疾走する黒い子猫のような気持ちになって
しまった。
「迷子の迷子の子猫ちゃん、か…」
そんな歌を歌いながら走って行く。やがてコンビニの明かりが
見えて来た。



Solid Black 2.


by belldan Goddess Life.