Solid Black 6.

電話が、かかってきた。


「あたし、出るっ!」
スクルドは満を持して玄関先へ行った。
「あ、仙太郎君っ!うんうん!」
どうやら相手は、川西仙太郎君だ。
取り留めの無い話が長く続き、そして会話が終わった。
「ふふん〜」
とても機嫌が良いらしい。
スクルドはそれから、俺の自室へノックも無く来た。
「螢一っ あたし出かけてくるからねっ」
「ああ、分かった…しかしノック位、出来ないのか?」
「うっさいわねぇ〜 じゃ、バイバイっ」


玄関先でスクルドが靴を履き、ガラガラと扉を開けて
出て行く音が聞こえる。それから何事もなかったかの
ような静寂が訪れる。
俺は自室に敷いてある布団に、仰向けになって寝そべる
「静かだな・・・」
ベルダンディー達が天上界へ戻って、まだ1日しか経過
してないのに、ひどく離れ離れになった気がする。
天井の模様を見る事も無しに見てたが、飽きてしまって
目を閉じる。そこにはいつもの笑顔、彼女の笑顔が映って
来る。
ベルダンディー・・・」
たった1日でこれだ…この喪失感、虚無感はどうして俺を
責めるように訪れるのだろうか。
彼女と出会う前の事を思い出してみる。それはまるで
映画のスクリーンを前にしたような、とても客観的で、でも
俺がとても苦笑いしている場面が多い・・・。
「お世辞でも楽しかった。とは言えないよな」
少し自嘲気味で俺自身に感想を打ち明ける俺って…
「まぁ 暇なんだな」と納得させてみた。


実際女神さまっと出会ってからの俺は、前後裁断と言うべきか
過去の俺と現在の俺とでは 180度違っているように見える。
しかしここに来て、静寂に身を置きながら考えていると
何も変わってないような気もして来た。
「女神たちの居ない日か…」
もし、それが本当に起こったら、俺は正直どうすれば良いのか?
女神たちが「じゃあ さようなら」と一言、いいや、もしかすると
何も言わないで、突然帰ってしまう事だって無いとは言えない。


こんな事を考えてしまう俺、それは上京する前、釧路で暮していた
時の俺と同じだと思った。必要以上に最悪の状態を想定して
それに対処しようとする思考だった。
「マイナス思考ってやつだな」
俺は自問する。
「でも他に最善策は無かったんだ」
俺は俺に答える。
「それは詭弁じゃないのか?」
俺は自問する。
「ああ、そうかもしれない…」


どうどう巡り、出口の無い迷路でループする思考は
俺を困らせて、諦めさせてしまう。


寝ながら考え事をしていたせいで、俺は眠ってしまった。
夢の中に、昔飼っていた犬、日本丸が出てきた。
俺は日本丸の誘う道を歩き出した。すると、どこかの街に出て
懐かしい友人達に出会う。とても不思議な感覚だった。
このまま、この世界で暮すのも悪くない…そう思ったとたん
眼前に海が、そして大きな津波が現われて俺達の飲み込んだ。


ジリリリーン ジリリリーン
電話が鳴っている。俺は目を覚まし、ひどく寝汗をかいている
首筋を触った。とても冷たかった。
枕元に置いてあったタオルで首筋を拭きながら、玄関先へ行く。
受話器を取る「もしもし 森里ですが・・・」



Solid Black 6.


by belldan Goddess Life.