Solid Black 7.

「もしもし?螢一?」
それはノスタルジックな華奢な受話器を
褐色の細い指が、音楽を奏でるようにして
「あたし、ウルドよん」
天上界からの電話だ。いつもは騒がしくて辟易する
その声も、懐かしい、と言うか愛しいと思った。
「それで・・・大丈夫なのかい?」
主語を付けない会話、それでもちゃんと通じる
「そりゃ大丈夫だって!あたし達を誰だと・・・あ」
「もしもし?螢一さんっ?あの…私…」
それは居ても立っても居られなくて、半場強引に受話器を
ウルドから奪取したベルダンディーの声
ベルダンディー!」
俺の声、声が上ずっているのを感じる。でも仕方ないんだ
「螢一さんっ あと少しで帰れそうです」
「本当かい?」
「ええ・・・」


たった今までの心配事が、まるで雨後の晴天の様に晴れる
なんだか現金にな男だな、と俺は苦笑するのだが、でも
君の声が聞けて、心から嬉しく思っているのは事実だ。


「螢一さんっ あの、帰ったらお伝えしたい事があるんです」
「うん、分かった」
「それと・・・」
「ん?」
「あの、私…早く会いたいです」
「うん、俺も会いたい」
本当に会いたい。君のその笑顔を見たい。何もしなくても
俺のそばにいてほしい。
風が頬を撫でるように優しい気持ちになる。


「んで、スクルドは?」
受話器の向こうはウルドに変わった。
「ああ、仙太郎君と約束したらしくって・・・」
出掛けた、と俺はウルドに言った。
「・・・そう、じゃあね、後でスクルドにも伝えといて」
「え?何を?」
「後でこちらに来なさいって、おねーさまっが言ってたって」
「あ、ああ、分かった」
「じゃ〜ね 独身最後の日々を楽しみなさいな」
「ん?何じゃそりゃ?」
「いいって、いいって!じゃあね〜」


受話器を置いた。最後にベルダンディーの声が聞けなかったのが
遺憾ともし難いが、まあ良いかと俺は厨に向かった。
冷蔵庫を開け、麦茶のポットを出し、それをコップに注飲んだ。
最後の麦茶だった。「後で作らないとな」と思ったが、今は
先程の電話での会話を反芻中だ。
ウルドの言った言葉・・・大体ウルドは意味深な事をよく言ってた
だからあまり気にしないでおこう。
ベルダンディーの事を考えてみた。彼女の長い髪とか、額の紋章とか
控え目とは言えないが、それでも、とても上品なアクセサリーとか
彼女の外側を構成する素材には、沢山の意味があるらしいが
中でも一番気になるのは、以前プレゼントした指輪の存在だ。
左手の薬指に、彼女は当然の如くそれを付けたのを思い出す。


君がここにいてほしい。


そう願わずにはいられなかった。



Solid Black 7.


by belldan Goddess Life.


補足話として07/14 記載「女神さまっの居ない日」参照。