Solid Black 11.

世界は夢を見る。
荒涼とした風景、豊かな草原の風景。風が舞う。
遠い記憶、無くした心のカケラを探しに行こう。


成す術が無い。
ワルキューレ隊のリンドは仲間達の攻撃を見て思う。
全ての攻撃が無力化されるその様を、吸収されて行く
部隊の力を見て、撤退を余儀無くした。
ユグドラシルからは、グングニルを使用するとの報告が
リンド達に届く。
「・・・おそらく、それも無駄だと感じる」
焦燥感もあるが、普段どおり冷静に対応するその姿は
やはり真のワルキューレなのだ。
「総員、撤退だっ!」
部隊は散会し、グングニルの影響を受けない地点へと移動
事の成り行きを傍観する事となる。


ユグドラシルからグングニルが放出される。
すざましい衝撃波、高圧化された光の矢が黒い影を目指す。


黒い影は、その闇は、何事も無かったかのように
その光を受け止め、吸収し、更に増大した。


「ダメですっ!このままだと全てが飲み込まれてしまいますっ」
モニターから、その全貌を確認したペイオースは
「もはや時間の問題ですわね・・・」
時間?・・・もしかしたら時間を止める。或いは遅らせたら…
「至急ウルド達を呼んで頂戴っ」
ペイオースには、確信があった。ノルン達なら多分…


「なぁに?」
つまらなそうにウルドが登場して来た。
「ペイオース?どうしたの?」
心配そうにベルダンディーが言った。
「また何か問題なの?」
スクルドが興味津々に尋ねた。


「ウルド、これは世界存亡の危機なのですのよ」
モニターが捕らえている、黒い影を指しながらペイオースが言う。
「うわ、すごい・・・こんなに?」
「これは何ですか?」
「ええ〜どんだけ?」
「そうなんですの・・・もはやここも時間の問題かと・・・」
あなた達ノルンなら、時の守護神なら何とか出来ると思うと
ペイオースは訴えかける。
「それにベルダンディー、あなたが拵えた世界もやがては…」
ペイオースは更に言葉を続ける。
「森里さん達が居る地上界にも影響が出て来るでしょう」


この闇に対して、攻撃は皆無に等しい。ただ悪戯に力を浪費して
ややもすると相手に力を投与しているかもしれない。
この相手の進軍を止めるには、時間を止めてしまうか
相手以上の膨大な光で包むしか策は無い。


「ノルンの、時の守護神の力を解放し、集約すれば・・・」
その後の言葉が続かない。ペイオースは断腸の思いだった。
「あんた・・・その意味、分かって言ってるのね?」
「ええ、それしか方法は見つからないのですもの」


あたしとスクルドはこの際良いとしても、ベルダンディーの事を
思うと、ウルドは二の足を踏んでしまう。
ベルダンディー あんたには無理よね。だって・・・」
だってベルダンディーには螢一との約束もあり、子供もいる。
「姉さんっ 私達なら止められますっ!やりましょう!」
「え?」
「お、おねーさまっ?」
だって、このままでは螢一さん達の居る世界もやがては・・・
そう思うと、何もしない訳には行かなかった。
「あんた・・・もしかしたら帰れなくなるのよ?」
「分かってます・・・すぐには帰れないと思います。ですが
私は、螢一さんの居る世界を守りたい・・・だから」


「あたしも仙太郎と会えなくなるのはイヤだけど・・・」
でも、彼の世界を守りたいと思うっ!とスクルドは言った。


「仕方ないな〜じゃ〜やりますか!」
ウルドは二人の肩を抱き、各々の頬に接吻し
「う〜ん、久々だわよね〜一丁派手にやりましょう!」
それはとてもウルドらしい、二人の対しての激励でもあった。


ノルン三女神の光が広がる。それぞれの法術コマンドが起動し
付けていた封緘が全て解除されて行く。
封緘解除は全ての力を増大させ、ノルン三人の真の姿を現す。
そこからさらに三人が融合し合体し、その光が最大点を示した時
モニターに映し出されていた黒い影が消えた。


「速い…見えなかった」
「すごい…もうあそこまで到達したの?」
「え?え?何がなんだか・・・」
ユグドラシルのオペレーター達が口々に驚愕の声を上げた。
ペイオースはただじっとして、モニターを見ながら祈っていた。
「どうか、ご無事で・・・」



Solid Black 11.


by belldan Goddess Life.