Solid Black 21.

弦楽器の四重奏の調べが聴こえる中、デスクに頬杖を付いて
ぼんやりと考え事をしている女神さまっが居た。
ここは天上界、ペイオースの自室であった。


「とにかく、一件落着でしたわね・・・」
すべての業務を終え、件の影騒動も収まった。
ノルン達も、拡散したエネルギーを収集し、元の姿に戻り
ユグドラシルの中央コントロール室へ帰還した際には
思わず彼女らに対して、泣き顔を見せてしまったのは
失態だと自嘲してしまった。
「でも、元気で帰って来た事は、わたくしにも嬉しい事」
微笑みながら、それでもこれからの安否を思うと
「あの方達は、これからが正念場ですものね…」
とペイオースは言う。それは誰に対して、では無く
自身を含む天上界そのものの将来をも予見しての事だった。


それからペイオースは、旅行の下準備に取り掛かった。
もちろん地上界へ赴く為である。そしてそれは親友への
お祝いも兼ねていた。
ベルダンディーと森里さんの赤ちゃんですか…」
彼女は、以前願い事を叶える為に地上界に降臨して
ある少女の願い事を叶え、こちらに帰還した経緯を思い出していた。
「ある意味、わたくしの方が経験者ですものねっ」
何か役に立つ方法とか、色々と伝授してあげましょう、と
ペイオースの心は踊っていた。
「鈴音ちゃんにも、会いに行きましょう」


それから懸案事項がひとつ浮かび上がっていた。
天上界は、今まさに空前の地上界ブームであった。
我も我もと、地上界への降臨、研修を申請しようとして
受付はパンク、一時は閉鎖までして事態を抑えた。
これも一時の流行なのだろうか。それとも新しい一歩なのだろうか。




一雨毎に、感じる風の温度が下がって来ている。
空には薄く白い雲間に混じったような空があって、秋の気配を
空気中にばら撒いているようだ。


「最近は天気予報も当たらなくなったなぁ〜」
俺は、縁側から洗濯物を干しているベルダンディーに向かって
そう言って、小さくあくびをした。
「でも今はほら!こんなにお天気ですよ♪」
ベルダンディーは歌うように返事をして
「風がこんなに気持ち良いですから」と笑った。


「女心と秋の空…良く言うじゃない?」
ウルドがそばにやって来て、俺をからかった。
「女神なのに…そんな事言うなよな」
「あら、ふふん♪」
ウルドは意味深な笑いをして、俺のそばで眠るマリアベルを見詰める。
「可愛い寝顔よねぇ〜」
そのまなざしは、やはり女神さまっだった。


「で、出来たわぁ〜!」
スクルドが自室から飛び出して来た。
「ほらほら!マリーの新しいオモチャなのよー!」
自慢の開発が、最近ではマリアベルのオモチャ作りに代わって
それが大満足なのだそうだ。
「これでぇ〜あたしと仙太郎君とで遊ぼうねっ」
瞳が輝いていた。まるでスクルドはお姉さんになったような
そんな気分なのだろう。


ひょんな事から始まった、俺とベルダンディーの共同生活から
ウルド、スクルドがやって来て、それはとても華やいだ物になった。
そして今は、俺達の子供が居る...
そんな俺達、もちろんウルドもスクルドも含めて
みんなで家族なんだと思う。


俺に与えられた時間は、彼女たちより短いだろう。
それが理由で、もしかしたら今までは避けられていた事柄として
異世界同士の交友が無かったのかもしれない。
だけれど、出会ってしまった事実は消せない。消したくない。
それがどんな結末になってしまっても、俺は最後まで俺自身でいたい。
例え記憶が無くなっても、心のどこかで、いつも君を求める俺がいる。
そんな自分でいたい、と強く思った。
「なに、大丈夫さ」
そう、物語は今始まったばかりだから。


人生が美しいと思えるなら、人生はとても美しく見えてくる。
それはきっと、花が咲くその姿を見て誰もがキレイだと思う事と
そんなに変わりは無いと思う。
「螢一さんっ お茶にしましょうか」
洗濯物を干し終わったベルダンディーが微笑みかけてくる。
「うん、みんなでお茶にしようか」
俺は、そばにいるウルドとスクルド
そして今は眠るマリアベルを見ながら彼女に答えた。


家族と共に...



Soild Black 21. END.


by belldan Goddess Life.



Soild Black終演です。今まで読んで下さった方、そうでない方も
 お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。
 物語は意外な方向へと旅立ち、そしてこうして着地しましたが
 彼らの物語は、今始まったばかりだと思います。

 
 最後にもう一度、ありがとうございました。