「〜奇跡の子供たち〜秋」

幼稚園から秋の遠足に行った。
お家のみんなで、お月見もした。
「ほらね、お月様にはウサギが餅つきしてて…」
ママがニコニコしながら、あたしに言った。
「餅つき?」
「そうよ♪」
あたしがじっと凝視してると、ママは驚いて
「マリアベルったら…まるでお月様とにらめっこしている
みたいだわよ」とママはあたしの頭を撫でながら言った。


「うん、見てるの…じっと見ていたら、うさぎさんが出てくる
んじゃないかな〜って…そう思ったの」
「ステキねぇ…でも、そんなに睨んでいたら、うさぎさんも
怖がってしまって、出て来てくれないわよ」
「あ・・・う〜」
ホラホラ、笑って見ましょうね、とママは言った。
「はい、お団子よっ♪」
「わーい」
月より団子だもん、あたしは甘い物が大好きだもん。


今年から年長さんになって、幼稚園ではみんなのお姉さん的存在
なんだから、もっともっとしっかりしなきゃ、って考えた。
でも、何も良いアイディアが浮かんでこなくて、それでスクルド
姉さんに聞いてみた事がある。
「ねぇ、スク姉さん?お姉さんって、どんな事をすれば良いの?」
「そうねぇ…う〜ん・・・」
と考え込んでしまったスク姉さん。そして
「お姉さまに聞いてみようかしら…今後の課題でもある訳だし」
だから、ふたりしてママの所へ行った。


「お姉さまってどんな事をすれば良いの?」って聞く為に。


台所で楽しそうに用事をしている姿って、とても好き。
それがあたしのママだ。歌も歌ってくれる。
あたしの通う幼稚園は、給食制度は無くて、みんなお弁当だ。
ママの作るお弁当は、みんなのお気に入りでもある。
おかずのやり取りをしたりするのが好きだ。
あたしの組は、さくら組って言うのだけど、みんなが聞くんだ。
「どうしてこんなに美味しいの?」
ママに聞かなくちゃ…って思ってる。だけど帰るといつも忘れる。


どうして?どうして?…たくさん聞きたい事があるの。
それなのに、ひとつ位しか覚えてなくて、また明日になってしまう。
それは眠る前の、ママの子守歌のせいなのかしら?
明日また、聞かなくちゃって…


 * * * *


「ただいま…」
納入期日と決算が重なってしまって、遅くに帰宅した螢一は
すでに寝息を立てているマリアベルの姿を見て、声を小さくした。
「おかえりなさい、螢一さんっ」
それまでマリアベルを寝かし付けていたベルダンディーが言った。
「今日は、どうだった?」
「ええ、いつも通りですよ♪」
「教えて教えて、ってうるさくなかったかい?」
「ええ、それもいつも通りですよ♪」
楽しそうにベルダンディーが、そう答えてくれたから螢一は
何だか安心したみたいだ。
「そうか…それは良かった」
「食事、まだですよね?」
「うん、何かあるかな?」
「ええ、飛びっきりの物が!」
「いつも、ありがとう…」
ふたりは、付き合い始めた恋人のように手を繋いで食堂へ向かった。



「〜奇跡の子供たち〜秋」


by belldan Goddess Life.