文化と日常

文化の日。空は晴れて、心地良い風が吹いていた。


 ある事件の後、幼子を連れて天上界から再降臨した
女神ベルダンディーは、最愛の思い人、森里螢一の元へ
「ただいま帰りました…螢一さんっ」
「おかえり…」
ふたりの間に、愛の結晶とも言うべき存在が
無垢な笑みを見せて、この世界の幸福を象徴しているかの
ようであった。


人と女神の間に設けた幼子は、その養育を天上界で
との声もあったのだが、女神ベルダンディーは、その言葉を
一蹴、愛する者と同じ世界で暮らす事を主張した。
天上界と人間界、いわゆる地上界の融合として
この事態が初めての事だった事もあり、ベルダンディー
主張は認可され、再降臨と相成った訳だ。


ただ、女神と言えど、地上界に習っての子育てには
かなりの労力を使わざる終えない。
無論、法術の類は使えても、肝心の子育てには無用と言うもの
また、子育てとは愛情がその中核を占め、交渉、商談とは違い
ギブ&テイクとは行かない。
ただ、与えるのみである。
もちろん女神さまっの心情に、与える思い、与える愛と言うものは
必要不可欠だし、ベルダンディーに至っては、有り余る程と言えよう。


だが、やはり労力は使われ、疲労は隠せないでいた。


家事全般をこなし、そこに子育てと言うカリキュラムが追加され
それでも笑顔で、明るく振舞っている女神さまっであったが
時折、寝かし付けた幼子のそばで、コクリコクリと転寝している
姿が見受けられた。
夫である、森里螢一は、そんな姿を見る度に彼女のそばに行き
後ろからそっとブランケットを掛けてあげていた。
「本当に大変なんだなぁ・・・」
俺に何かできる事があれば良いのだけど、と彼はつくづく思った。
しかし男手で出来る事は、単なる力仕事が相場で、お風呂に入れる
その手伝い位しか思いつかない。
実際の機微、特に女性特有の機微に関しては皆無と言えた。


何時ものように、そっとブランケットを掛けて、その場を立ち去ろうと
した際、彼女の手が彼のシャツの裾を掴んだ。
そしてそのまま、彼女は彼の胸にすべるようにして入って行く。
「わっ」
螢一は、小さく声を出したが、慌てて口をふさいだ。
しりもちをつくような格好で、そのまま座ってしまった彼の膝元に
女神の安らかな寝顔が、自分の居場所を探し当てたように
安心しきって鎮座している。
しばらくじっとして、彼は彼女の寝顔を見詰めていた。


そう言えば、俺にもしてくれてたんだよな、と螢一は思った。
家事と育児に、ちょっと疲れた女神さまっの寝顔だけど
俺はとても癒されてるな、と感じた。


そろそろ風が冷たい季節だ。風邪を引かない様に、と
ベルダンディーの身体に、そっとブランケットを掛け直した。




by belldan Goddess Life.


 天龍騎さんのリクエストに、突貫工事でスマセン(苦笑)
そんな訳で、ワンショット話をお送りしました。