星の夜

星の夜 その2


 上空に流れてる風が、とても早く移動している。
気温が下がりそうだ、と俺は考えたが、それにしても
今にも降りて来そうなほど、星空が近くに感じる。
バイクを止めた避難所のような場所にはベンチがあって
昼間なら展望を楽しむ事も出来ただろう。
俺はベンチのそばにバイクを移動して、車側と平行に止めた。
これならベルダンディーに寝袋に渡し、サイドへ潜り込んで
もらったら、寒さも回避出来るだろうと考えたからだ。
俺は…ベンチでブランケットに包まれば良い。


高い木々を揺らす風、ザワザワと音を立てて、静寂を予告して
いるかのようだ。
「…うん、そうして包まってくれたら、寒くないと思う」
手順を手短に説明し、ベルダンディーに寝袋を渡した。
「でも、螢一さんっは?寒くないのですか?」
「俺にはコレがあるから」とブランケットを見せた。
それに君のそばにいれる訳だし、心はほら、暖かいんだよ。
もちろん見せれないけど、そして見られると照れてしまうけど。


ライダー・ジャケットからミニマグライトを取り出して
取りあえず電池が切れるまで、ここの明かりにしよう。
本当は火を熾せば良いのだけど、山火事の犯人になるのも
嫌だし、それに、この暗闇が俺と彼女との間を近づけてくれる
そんな気もした。


その内に風の音が聞こえなくなった。
空にあった雲は、先ほどの風に流されて、どこかへ行って
しまったみたいだ。
空が鮮明な夜になる、星が生き返るようにキラキラとして
ふたりを包んで行く。
俺はベンチに仰向けに寝転がり、ブランケットを上にかけて
夜空を見上げている。
ベルダンディーサイドカーで寝袋に包まって空を見つめる。
「ねぇベルダンディー、まるで宙に浮かんでいるようだね」
暗闇の中で、遠くに光る星たちを見つめていると
浮遊感が身体を包んでいくようだった。
「ねぇ?・・・」
返事が無いので、もしかしたら先に眠ってしまったのかな?と
俺はベルダンディーの方を見た。
彼女は、じっと俺を見詰めていたらしい。そして
「螢一さんっ どこにも行かないでください・・・」
彼女は寝袋から、そっと手を出していて、俺のブランケットの
裾を握っていた。
「だ、大丈夫だよ〜」 と、俺は彼女を見た。


ベルダンディーは首を横に振り
「大丈夫じゃないんです…螢一さんっが大丈夫でも、私が…
私が大丈夫じゃないんですっ!もし、このまま螢一さんっが
私のそばから居なくなってしまったら、私…私…」


もしここが明るくて、たくさんの人が居る場所なら
彼女も俺も、こんなに素直にはなれなかったと思う。
ブランケットの裾にあった彼女の手を、俺は
そっと自分の手に持って来た。
「これなら大丈夫だろ?俺はここに居るよ」
「螢一さんっ・・・」
寝袋から、ずっと出していたんだろ、彼女の手が冷たい。
俺は体の向きを変え、両手で彼女の、その冷たくなった手を
暖めようと握り締めた。
「暖かいです・・・螢一さんっ」


俺には、彼女のその思いのほうが、暖かいと感じる。
この世界の中で、俺を頼りとする女神さまっが居る事が
何よりも最高の贈り物だと思った。


「俺は、ここに居るよ」



星の夜。


by belldan Goddess Life.