星の夜

君の瞳に映る宇宙は、どんなのだろう...


 うっかりしていた。
実にうっかり者だと自嘲もしたい状況なのだが
そう言う訳にも行かない。
「あの…螢一さんっ?」
心配そうに見詰めるベルダンディーに向かって俺は
「ああ、大丈夫さ…」と心許なげにしか言えない。
バイク乗りで、しかもエンジニアな俺にとっては
不測のトラブルなんぞ、造作も無い事なのだが
こればかりは…


突然、俺のハラがグルグルと食を要求する
「螢一さんっ? お腹が空いてるんですね?」
ベルダンディーは嬉々として、用意してたランチの残り
のサンドイッチを取り出してくれた。
「でも、ごめんなさい…お茶が無くて…」
ベルダンディーは、実に申し無さ気に言ったが
本当にハラを空かせて困っているのは、こいつだ。


そう、俺の相棒であるBMWだ。


ここは笑う所じゃないぞ(笑)


俺たちは、たまの休みに乗じて、少し遠出をしていた。
かなり久しぶりの、二人だけの同行に心躍っていた。
前日からベルダンディーは、お弁当の用意に余念が無かったし
俺も日頃の整備より、かなり入念にチェックしていたんだ。
しかし肝心の燃料が無ければ、やはりバイクは動かないものだ。


バイクを押して帰るには遠すぎるし、燃料を入れようにも
周りにはスタンドも無い山坂道で、俺たちは途方に暮れるしか
無かった・・・
「螢一さんっ・・・あの、私・・・」
「大丈夫だって!俺に任せてよ」
とは言うものの、然したる案は無く、夜も暮れて来たので
ここでビバーグと洒落込むしか無いのが現実、朝になれば
徒歩でガソリンスタンドへ赴くか、近くの民家に訳を話して
救援を求める手もあるだろうが、この時間帯じゃ無理かも
知れないと思った。


「そうだ、確かここに・・・」
俺はサイドカーの後ろにあるスペアタイアを外し、小さな
トランクを開けた。
そこにはブランケット一枚と寝袋があった。
いつぞや、それは曖昧な記憶の断片にだが、何かの拍子で
入れていたのを思い出したからだ。


これで取り合えず、夜を過ごせる最低限の用意が出来た。
しかし、どう言って彼女に訳を話そうか
そして、とっさに出てきた言葉は、俺にとっては実にキザな
台詞に聞こえた。自分で言うのも何だが。


「ねぇベルダンディー、今夜はここで星を見ないか?」



星の夜。


by belldan Goddess Life.


不覚にも続く(爆)