音楽

鳥よ 白き鳥よ その羽に風受けて
その瞳に 何を映して来たのか
夢と未来へ 進む翼よ 風に乗りて
心溶かす 久遠の大地へと
その進路を 変えることもなく 進んで
世界の果てへ 世界の果てへ...



 日中はとても、うららかな陽気で、それは
言うなれば、洗濯日和とも言うのだろうか。
我が意を得て、とでも言うのか、洗いざらし
洗濯物が、物干し竿で優雅に風と戯れている。
もちろんコンダクターは、女神さまっだ。
ベルダンディーは、歌を口ずさみながら、その手先は
まるで魔法の様に、洗濯物を調律して行く。


シンプルで、それでいて心に残るメロディーと
彼女の慈愛あふれる声が重なると、それだけで
荘厳なオーケストラのようで、そのあまりにも
崇高な空気で、あたりは清浄化されているようだ。


俺は、何を思いついたか、部屋に戻りギターを取り出して
先程聞いた、彼女の歌の旋律を反芻する。
どうにもこうにも、彼女の歌声にはかなわない、でも
心に響いたメロディーは、鮮明に、とても鮮明に。
たどたどしかった旋律も、何度か試して、少し滑らかに
なって来ると、俺はとても嬉しくなって、もう少し
もう少しと、先へ進んで行った。


彼女が振り返る。俺の方を見て、笑顔が眩しく光る。
ギターの旋律に合わせて、彼女の声が耳に届くと
女神さまっの奏でる音楽団の一員になったような気がした。
秋の弱い日差しと、冬の到来を告げる風と、白い洗濯物が
俺と彼女の奏でるメロディーに呼応するように舞い上がると
世界は、この世界は、とても美しいものだと感じて来る。


何度か繰り返したメロディーが、終演に近づいて
小さくフェイドアウトした。
「螢一さんっ♪」
「ベ、ベルダンディー!」
見詰め合うふたりには、何もいらない。
それはどんな抱擁より、どんな愛の言葉よりも
確かにふたりの間に存在するのだった。



音楽。



by belldan Goddess Life.