気紛れに散歩した海岸線
異常に素早く走り去る雲たちを見詰めていた。
潮風が香る その場所から 一瞬にして
空気が変わる 無風状態になる。
空に旅立つ 鳥たちの姿も消えて
世界は 音の無い空間と変化した。


刹那


一陣の風の軍が到来して来る。
砂塵をはらみ 異国の香りを包んで
時は来たれり 時は来たれり と叫んでいるような
そんな気がした。
「すごい風ですね〜」
右手で器用に帽子を押さえながら彼女は言った。
その顔には、驚きと等価の楽しみが混在していた。
彼女は風を全身に受け止めながら、嬉々として微笑む
風はまるで彼女の従属の様に、彼女の周りを周回して
後方へと立ち去って行った。


風の精霊を司る女神が、凛として立っていた。


俺は突然の突風に、飛ばされそうになるのを
体を小さくして対応していたのだが、見上げるとそこに
彼女の笑顔があった。
「螢一さんっ 大丈夫ですかっ?」
「ああ、何とか…ね」
防波堤の一部に身を隠していた俺に
女神の手が差し伸べられた。
俺は思わずその手を取ってしまったのだが、その時
体がふわりと宙に浮かんだ。
「うわっ…」
それは女神の力なのか?それとも磁場によって生じる
何か…特別な力なのか?


まるで引き寄せられるようにして、彼女の立つ防波堤に
降り立った俺なのだが、まさに”降り立った”と言う
表現が、一番ぴったり馴染むのだ。
「螢一さんっ! すごーい!」
彼女は喜んでいる。そして
「さっきの風さんが、まだそこにいたのですね!」
風の風力によって、どうしてだか俺は宙に浮かんで
女神の手による先導を得て、彼女のそばに来た…
と言う次第なのだ。
「ビックリしたよ…君の力だよね?」
「うふふ、そうでもありませんよ?」


あの子達(風)も、螢一さんっの事を気に入ったみたいだわ
そうでなければ、こんな事はあり得ないですもの
風に乗って、風を切って走るバイクを操る彼ですもの
当たり前かもしれませんが...


ベルダンディー 気持ち良い風だったね
ちょっと驚いたけど…ね」
「ええ、でも螢一さんっが喜んでくれたのが一番の
驚きだったのですよ?」
あの風たちは、世界を旅する者だから、その出会いは
一期一会なんです。
きっとあなたに会えた事が、あの子達にもステキな
旅の想い出となるでしょう。
「俺が?驚いたことが?」
「ええ!」
「教えてよ?」
「いいえ、それは出来ません。でも一緒に探しに
行きましょう!」
その時、彼らの手は繋がれたままだった。
もっとも、彼はそんな事も意識できないままだったのは
幸か不幸か…



風。


by belldan Goddess Life.