マーちゃんの思い出。

「お、おぃ聞いたか?1年のAクラスの…」
「ああ、知ってるぜ…魔界長の娘らしいよな」
「君子危うきに近寄らずだぜっ」
「俺たち魔属が言うのも何だがな...」



魔界のとある学校に、魔属の長の娘が居た。
褐色の肌、そしてその眼差しはまさに長の娘だ。
しかしそのせいで、彼女には友達が出来なかった。
彼女はいつも一人ぼっちだった。
でもそれがイジメだとか、そういった類の物でないと
彼女には分かっていた。分かっていたが
心にはいつも隙間風が吹き荒れていた。


しかし一人の魔属が、容易ならぬ気配で近づいて来た。
「おまえ…魔界長の娘なんだってな...」
「そうよ?悪い?」
「わたしの名は、マーラーだ」
「へぇ〜そう」
「そうって…それだけかいっ!」
「それだけよん…他に何が要る訳?」


マーラーは学校一の秀才だった。努力を惜しまず
我武者羅な姿勢には、多くの賛同者もいた。
法術の力も、学内では勝る者は居ないと自負していた。
「くっ…まぁ、いい。 なぁウルド、わたしと勝負
して見ないか?」
「勝負?面白いの?」
ウルドの、そのあまりにアンニュイな返答に激怒した
マーラーは、その気持ちをありのままに伝える。
「バカにするのも好い加減にしろっ!おまえが
魔界長の娘だからと言って、皆に恐れられているが
わたしには分かるっ!おまえは臆病者だっ!」


「へぇ…あたしって、そうだったのか」
以外だった、自分の事を臆病者と言って来たのは
これが初めてだった。
「あんた…本当に面白いわねぇ」


「面白い?なんじゃそりゃ?わたしはマジメに言ってる
んだぞ!それをバカにするのかっ!」
マーラーの激しい怒りが最頂点に達した。
彼女は方術を唱え、ウルドに攻撃を仕掛ける。
とは言っても、まだ2級魔だから、使える法術の範囲は
かなり限られていた。
マーラーの放った炎の竜は、的確にウルドを捉えた。


炎の中にウルドのシルエットが映る。
やがて炎は消え去り、そこには焼け焦げたウルドが
居るはずだった…のだが、まったく無傷だ。
「へっ?なんでだ?」
すっとんきょうな声を出したマーラーにウルドは
こう言った。
「あんた…何か、したの?」
涼しげな顔で、何事もなかったような、そんな言い口だ。


マーラーは戦慄した。
今のわたしでは、到底敵わない…
どうするわたし? ここは逃げるしか、手は無いのか?
「くっそー!覚えてろよっ!」
マーラーは逃げ去った。


「あらまぁ…負け犬の遠吠えみたいねぇ」
ウルドが面白そうに笑った。
でも、あいつ…本当に面白いわ。今度見かけたら
あたしから声かけてみよう、とウルドは思った。






「違うわー!戦略的撤退なんだぞー!」
マーラーは叫んでいたのだが、ウルドには
届かなかったようだ。




マーちゃんの思い出。


by belldan Goddess Life.