Tales of Snow.

昨夜から降り出した雪が、世界を白銀に変えて
行くのに、そんなに時間はかからなかった。


一晩あれば、良かった。


その時間、それは夢の中の時間、そして彼女は
そのまどろみの中で、彼と出会っていた。


真っ白な世界、まだ何も始動していない時間に
新しい絵を描いて行く。
彼の事を思うとそれは、虹色に輝き出した。
不完全な形で止まっていた、完全なる世界が動く時
それは、つまり、夢の終わりを告げる。


スクルドお姉ちゃ〜ん!朝だよ〜雪だよ〜!」
姪っ子のマリアベルが、けたたましく彼女の部屋に
飛び込んで来た。
「起きて起きて起きてぇ〜!」
マリアベルは、掛け布団の上からスクルドを揺さぶる。


白き世界の夢、そこから暗転して、現実の世界へと
帰路に着くと、スクルドの思考が活性化されて来た。
「んあ?あによ〜?」
そっと目を開けると、そこには満面の笑みを頂いた
姪っ子がいた。
「マ、マリアベルちゃん?どしたの?」
「どしたのじゃないよ〜朝だよ〜雪だよ〜!」


朝?雪?…朝雪さん? って、何じゃそりゃ?


そんな下らない事を思っていると、マリアベル
縁側に続く障子を開け放った。
「ほらほら!雪!雪だよ〜!」
「あらぁ〜」
スクルドは感嘆した。
だってそれは、夢の世界で観たような白銀の世界と
同じ色をして、少し違うと言えば、気温だけだ。


「って…寒いわよっ!」
スクルドがもう一度掛け布団に隠れてしまった。
「あー!ダメー!ダメだよ〜!」
起きてください!と言わんばかりにマリアベル
掛け布団を奪った。
「ね、スクルドお姉ちゃん!お外で遊ぼうよー!」


「…わかったわよ」
ちょっと待ってて、とスクルドはマリアベルに言うと
支度を始めた。
ばんぺいくんをスノーモードにして、それから…
それから…


「それから?」


何だか、ちっとも味気ないなぁ、と思った。
色気が無いって言うか、これじゃ何時ものあたしだよ。
夢の世界のような、白銀の世界が展開されているんだ。
もしかしたら、もしかしたらとってもステキな事が
起こるかも知れない。
「ロマンス?」
あたしは自嘲してしまった。だけど、期待せずには
居れなかった。


お姉さまから頂いた、冬のコートは大切な宝物だ。
袖を通すと、ほんわりと暖かい。
マリアベルは玄関先で、早く早くと催促の声を出している。
あたしの武装は、このステキなコートだけで十分だ。
「今行くよ〜」
マリアベルのコートは、緑色をして、フードが付いてる。
そのフードをかぶると、まるでカエルのようになる。
あたしはカエルがキライだけど、まぁ良い、可愛いもの。


「お待たせ〜」
「遅いよ〜」
「じゃ、行こうか?」
「うんっ!」
玄関で防寒ブーツを履き、出発進行っ。


境内は、言うまでも無く誰も足を踏み入れていないので
真っ白な絨毯はそのまま残っていた。
キャイキャイとマリアベルは、そこら辺に足跡を残す。
スクルドは、本当に不思議だなぁと感心していた。


雪って、本当に何もかも白銀の世界に変えてしまうのね。
真っ白なキャンパスに、あたしは何を描くのかしら?
マリアベルのように、ワイワイと足跡だけを残すのも
面白いけど…ちょっとねぇ。


ふたりは正門をくぐり、街路へと足を運んだ。
「わぁー!」
「へぇ〜」
本当に降り積もったんだなぁ、と思った。


空を見上げると、曇天の雲間から、日差しが差し込んで来る。
太陽の光が当たった場所だけ、光が乱反射していた。
ある場所を見ると、そこだけプリズムのようになっていて
虹が浮かび上がっていた。
「マリアベルちゃん、ほら、あそこ!」
虹のかかる場所を指差して、彼女を促す。
「え?どこどこ?」
「ほらほら、あそこよ!」
「あっ!お兄ちゃん?お兄ちゃんだっ!」


今度はスクルド
「え?どこどこ?」
「ほら、あそこ!虹のある場所っ!」


それは本当に不思議な光景で、まるで虹のアーチをくぐるように
仙太郎が、こっちへ向かって歩いてくる。


これは、夢の続きなの?


そう思わずにはいれなかった。



Tales of Snow.



by belldan Goddess Life.