恋するふたりは

『神代の時代の話。ある人間の男が天界から
降臨した女神に恋をしてしまった。ふたりは
心からお互いを必要とし、愛し合った』


『やがて時が経ち、二人に別れの時が訪れる
女神は天界に帰らなくてならなくる。その時が
明日だとしても、二人の思いは変わらずにいた』


『やがてその時が来て、ふたりは離れ離れに
なってしまう。もう会えないと思うと男の心には
風穴が空いてしまった』


『こんな思いをしてしまうのなら、いっそ石像に
なれたら、どんなに楽だろう。と男は考えた。
するとその願いは天界に届き、成就してしまう』


『神代の時代に海の見える丘に、胸元がぽっかりと
空いた、男の像が水平線を凝視している姿がある
それは女神と恋した代償なのか、それともただひとつの
愛の証だったのか、今では誰も知らない』



それは古い書物で、何気に古書で買った神話の本だった。
最後の件を読み終えた森里螢一の、胸に去来する思いは
とても言葉に出来ないくらい複雑なものだった。
「何だかなぁ...」
ひとり部屋で、うつ伏せになって読んでいたのだが
本を閉じると、ごろりと仰向けになって寝そべった。
天井を見るとも無しに、ぼんやりと見詰めながら
恋に付いて、自分の知る限りの事を考えてみた。


恋と言う物は、とてもパーソナルな事項だ。
言い換えれば、自分勝手で、有頂天で、まぬけで
それなのに、とても素晴らしい事なのだ。
俺は女神に恋をしてしまった。そのひとりの男として
言える事は、恋は平等じゃないって事だ。
「だがしかし、公平なんだよなぁ...」
結末においては、公平なのだ。


俺はベルダンディーが好きだ。
俺はベルダンディーを愛している。
俺はベルダンディーに幸せになって貰いたい。
そして、彼女は俺の事を、どういう風に思っているのか。
「それが問題だ」


そう、それが彼にとって一番の問題なのだ。


そしてそんな風に考え込んでしまうのは、彼の一番悪い癖だ。


「あ〜分からんっ」
仰向けのまま、頭をクシャクシャと掻いて、リフレッシュ
しようとするのだが、上手くは行かない。
諦めて、仰向けだった姿勢を勢い良く起こして胡坐をかく。


「ああっ…言葉に出来たらなぁ」


ちょうど螢一の部屋の前、ベルダンディーがお茶の支度を
持って、襖を開けようとしていたのだけど、そんな螢一の
ジレンマを、聞くとも無しに聞いてしまったので
めずらしくタイミングを外していた。
「…螢一さんっ」


傍から見れば、イライラしてしまうふたりだが、それもまた
恋の妙味なのかも知れないね。



by belldan Goddess Life.