うたたね

久々の休日で、何も用事も無い日。
俺は自室で、ぼんやりと時間が過ぎて行くのを
楽しんでいる。
本棚から、古いバイク雑誌を引っ張り出して
パラパラとページをめくっていた。


「ふぁ〜」


と、あくびをひとつ。


仰向けになったり、うつ伏せになったりして
気ままな日曜日は、何もしないに限るよな、と
そんな自分を面白がっていた。


「螢一さんっ お茶が入りましたっ」
ベルダンディーは、そっと障子を開けると
静かに部屋に入って来た。
お茶をのせたお盆を置くと、不思議そうに尋ねる。
「螢一さんっ 何をしてたのですか?」


「あ、いや…うん、何もしてないよ」
何かをしなくちゃイケナイ事は無いのだけど
ちょっと罪悪感を覚えてしまって苦笑いをした。
ベルダンディーは、ポットから湯飲みにお茶を注ぎながら
「そうなんですか。でも、何だか楽しそうです」
湯飲みの中に注がれたお茶の香りと共に、彼女の気持ちも
何だか感じられてしまって
「そう…かな? でも、ゆっくり出来るのって良いよね」


受け取った湯飲みを持ち、鼻腔をくすぐる香りを楽しんで
それから一口、お茶をすすった。


「私もここで、少しの間ゆっくりさせて貰っても良いですか?」
ベルダンディーは、部屋を見渡して、楽しそうに微笑んだ。
「もちろん良いよ」
彼女が傍に居るのは、とても嬉しい。
そして、とても緊張してしまう。


俺は、彼女の淹れてくれたお茶をすすりながら、雑誌のページを
めくっていた。
彼女と言えば、部屋の中でニコニコとしていたのだが
それに飽きたのか、本棚にあるアルバムを取り出して見出した。
時々「あらっ」とか「うふふっ」とか、思い出し笑いが聞こえて
俺は背中越しに、それを聞いていたのだが、彼女もそれなりに
楽しんでいるようだ。


少しして、パタッとアルバムを閉じる音がすると
「ふぁ〜」
と、彼女のあくびが聞こえてきた。
眠くなったのか、と俺は彼女の方を向くと
「あの…螢一さんっ 私、少し眠くなってしまいました…」
「そうだね、退屈だもんな」
俺はそう言った。
それから彼女が部屋から出て、居間で休むのだろうと考えてたら
「ここで休ませて貰っても、良いですか?」
そう言うと、パタリと横向けに寝てしまった。


「あ・・・」
俺は、何をどうすべきが少し躊躇したのだが、押入れから
枕と掛け布団を取り出して、転寝する彼女の元へ行った。
とりあえず掛け布団を、彼女に掛けようとした時
「螢一さんっ」彼女は無意識のまま、俺の手を取って
そのまま自身の身体を俺の方に寄せ、頭を俺の膝にのせて来た。
「え?」
これって、逆膝枕じゃないか?と焦る。


彼女の顔を覗き込むと、とても幸せそうな寝息を立てていて
起こしたりするのは、とても人道的じゃないと思った。
幸い俺の脚は、伸ばしたままだったし、少しすれば彼女も
起き出して来るだろうと判断し、そのままの状態でぼんやりと
幸せそうな寝顔を見詰めていた。


部屋の中、古い時計の時間を刻む音がコチコチと鳴っている。
それがそのまま、ゆっくりとした時間を構成し、部屋を充満して
行く。
平凡な暮らしの中の、平凡な時間の経過は、そのまま平和を
意味し、女神さまっの幸せな寝顔と同じく、幸福そのものだ。


俺達人間の、それは本の限られた人生の時間にも、こんなに
豊かに流れる時があっても良いんじゃないかな?とか思った。
「ふぁ〜」


あくびをひとつ。


俺も眠たくなってしまって、そのまま仰向けに寝転んでしまった。




うたたね。


by belldan Goddess Life.