Rhapsody in St.Valentin’s day #3

急いで厨へ来たものの、何も手に付かない
気持ちばかり焦ってしまって、だけど何かを
しなきゃ、心は落ち着いてくれそうにもない。
「ええと…」
冷蔵庫を開けて、中身の確認をして卵を取り出す
それからボールの中に卵を割って行くのだが
何故か何時もの様に、上手くは割れてくれない。
「あっ!」
一つ目の卵はどうにか割れて、上手くボールの中
そして、2個目は…
「殻が入っちゃったわ…」


「どうして…」


「どうしたも、こうしたもないわよっ!何してるの?」
厨から発せられる焦燥感を感じたのか、ウルドが
顔を出して来た。
「姉さん…」
「分かってるわよ、螢一の事でしょ?」
「あの、あの…螢一さんが、お腹を空かせて…それで」
それで…って、ほんとに、この娘の慌てようったら、
螢一の事となると、何でいつもこうなるんだろうかと
ウルドは思う。
何をやらせても完璧にこなしてしまう、1級神の中でも
屈指の女神であるベルダンディーなのだが、どうも
勝手が違うらしい。
「そんなに慌てなくても…冷蔵庫に生ハムをチーズが
あるでしょ?それでサンドイッチを作れば?」
「でも…それはウルド姉さんの…」
「ええ、あたしのワインの肴だわよ?でも今は螢一
の事が最優先じゃないの?」
「ええ、ですが…良いのでしょうか?」
「良いも悪いも無いから、早く作って持って行きなさいっ」


ベルダンディーの憔悴した顔から、笑顔がこぼれてきた。
「ありがとう、姉さん」
ベルダンディーは、サンドイッチを作る支度を始めた。
その、甲斐甲斐しく台所に立つ姿を見ながら
ウルドは思った。
あたしのお使いは、多分忘れているな、と。
「あのさ、あたしはちょっと出掛けてくるから、後は
お願いね。大丈夫、何もかも上手く行くからさ」
そう言って、ウルドはこっそりと出て行った。
行き先は、もちろん酒屋である。
ベルダンディーに頼んでいた、ワインを買いに行ったのだ。


気を取り直したベルダンディーは、実に出際良く支度をして
火にかけたヤカンが悲鳴を上げる頃、サンドイッチは
完成した。
それから、紅茶を用意して、螢一の元へと急いだ。


「螢一さんっ!これを…」
差し出したサンドイッチと紅茶、慌てている彼女の顔を
嬉しくも心配そうに見詰めながら
「あ、ありがとう ベルダンディー
彼は言う。そして、無理しなくて良いからね、と呟いた。


ベルダンディーは、彼のお世話をしたかったのだが
それはスクルドの声に一蹴される。
「お姉さまっ 急がないと!あたしたちも作らなきゃ!」
そうなのだ、手作りチョコレートの製作をしなくては
ならなかった。
スクルドも少々焦り気味だ。彼女は仙太郎君へのチョコを
姉と共に作るのを楽しみにしていたし、それ以上に
手作りを彼に渡せる喜びがあったから。
「あ、そうだったわね。じゃあ、支度しなきゃね」
もう少し螢一の傍に居たかったベルダンディーだが
こればかりは仕方が無い。
「螢一さんっ 後でね」
「ああ、いってらっしゃい」


早く早く、とスクルドに急き立てられ、またしても
ベルダンディーは厨へ向かった。



Rhapsody in St.Valentin's day #3


by belldan Goddess Life.