Rhapsody in St.Valentin’s day. end.

波乱のバレンタイン・ディとも言うべきなのか
生まれて後、こんな状況でたくさんの女性から
と言うか、女神たちからチョコレートを頂くのは
ある意味、恐怖でもあったのだが…
それでもやはり、嬉しい気持ちは隠せない。
有名漫画家のサイン会とか、もしかしたらこんな感じ
なのかな?とふと思った。
「あのさ、ペイオース?これって、ただのイベント
なんだよな?他意は無いんだろ?」
そばで進行役をしているペイオースに、それとなく
尋ねてみた。
「もちろんですわっ 他意など、ございませんっ
全て、女神たちの熱い思いなのですわよっ!」


熱い思いって…何だかなぁ


俺とベルダンディーの仲は、地上界よりも天上界の
方が公然と認識されていると思うのだが、だがしかし
もしかして、地上界の認識とは、かけ離れた感性で
このイベントに臨んでいる女神たちもいるかもしれない。
やはり女神さまっは、計り知れない…とも思った。
ベルダンディーが持って来てくれたサンドイットの
最後の一切れを口にほおばり、紅茶を飲み干すと
今度は睡魔が襲って来た。
ただ座っているだけとは言え、こんなに多くの女神たちと
挨拶を交わし、握手し、プレゼントを頂いて、笑顔で
お礼を言っていると、自分の存在が高揚して来てしまい
それが疲労感を推進させているかのようだ。
いわゆる気疲れ…って言うやつなのかな。


列にはまだ十数人が連なっているし、その背後には
山のようなチョコレートが所狭しと鎮座している。
それにベルダンディーは、とにかく急がしそうで
やたらと走り回っていたし、この状況下で俺は何も
出来ずにいた。


そんなこんなで、あと数人と言う所まで来た。
「ありがとうございます」
俺は、プレゼントを渡してくれた女神にそう告げて
列の背後を何気なしに見た。
なんと、リンドが最後尾に並んでいる。
「なっ…リンド?!」
そして最後の一人である、リンドの番がやって来た。
「リンド…」
「うむ、参加させてもらっている」
「えっと…」
「ああ、我々はこんな状態なので、警護を兼ねて降臨して
来たんだ」
そう言えば、列の中には戦闘部隊らしい女神もいた。
「警護してたのか…」
「そうだ。こんなに大挙して天上界から女神が降臨しては
何が起こるか分からないからな」
「そりゃそうだけど…あ、でも天上界は大丈夫なのか?」
「うむ、問題ない」
「そりゃ…良かった」
そりゃ良かったって…俺は何を心配しているんだ?


それからリンドは、少し緊張した面持ちになって
「あの、私からもあるんだ」
と言って、チョコレートを差し出した。
「森里君とは、生涯の友だからな」
そう言いながら、少し顔を背けている。
何気に横顔を見ると、少し赤面しているのが見えた。
「えっ!あ…うん…ありがとう、リンド」
「では、私はこれで…女神たちの帰還の警護に戻る…」
「うん、また遊びに来てくれよ。歓迎するよっ!」
リンドは、横を向いたまま、その赤面した顔でコクリと
うなずいた。
それから何かを告げたかったのだろうか、少し躊躇して
でも、やがて飛び立って行った。


「うふっ やはり、リンドも女神ですわねっ」
「どういう意味だよ?」
俺はペイオースに聞いた。
「ホント、鈍感な方ですわよねぇ…」
肩をすくめながら、ペイオースは参ったわね、と呟く。
「でも、まぁ良いですわっ 今回はありがとうございます
螢一さんっ 本当に助かりましたわっ」
そして、ペイオースもチョコレートを螢一に手渡した。
「それから…ねっ」
そう言って、俺に抱きついてきた。ハグである。
「あなた達に、幸多くあれっ」
では〜と手をヒラヒラさせながら、ペイオースも帰還して
行く。バラの花びらを撒き散らしながら…


天上界からの来訪者、女神たちが全て天上界へ帰還して
行った。
お寺の境内に残ったプレゼント、それは全てチョコなのだが
今までの喧騒から考えると、不思議な空間を形成していた。
俺は、途方に暮れた。



「螢一さんっ!」
息せき切って、ベルダンディーが駆けてくる。
「間に合って良かったっ!」
そう言うと、長テーブルの前に立ち
「はい、これ私からですっ!」
今、まさに出来上がったチョコケーキを差し出した。
「それから、これは…」
可愛い包み紙をテーブルに載せた。
「見ても良いかい?」
「はいっ!」
俺は包み紙をあけ、中身を取り出して見た。
それは彼女の手編みのセーターだ。
綺麗なペールイエローで構成された柄は、待ち遠しい
春の日差しを連想させる。
「着ても良いかな?」
「はいっ!」
袖を通してみる。この暖かさはどう表現すれば適切なのだ
ろうかと思った。
「すっごく暖かいよっ!ありがとうベルダンディー
「良かったっ!」
彼女の笑顔だ。ベルダンディーの笑顔だ。
俺が一番欲していたのは、彼女の幸せな笑顔なんだ。
そう思うと、胸に熱いものが込み上げて来て、俺は思わず
彼女を抱き寄せた。
「螢一さんっ…」
ベルダンディー…」
その時俺は、一瞬躊躇したのだが、でも誰が見てても
構わないと思って、彼女にキスをしてしまった。


もし、ウルドやスクルドがそばにいたら、とてもややこしい
事になっていたに違いないが、天上界から降臨して来た女神
たちの思し召しなのか、まったく邪魔は入らなかった。


「ところでさ…ちょっと困った問題が発生したんだけど」
「何でしょうか?」
「あのさ…あれだ」
と俺は、チョコレートの山を指差した。
天上界から降臨した、それも女神たちの思いの篭ったチョコ
無下に出来るはずも無い。
「そう…ですねぇ」
ベルダンディーも困惑した面持ちで、山を見ていた。


「あのさ、人々を幸福に導くのが女神さまっの仕事なんだね」
「ええ、そうです」
「だったら…このチョコを幸せのお裾分けとして、みんなに
配ってみたらどうだろうか?」
「螢一さんっ!良いアイディアだと思いますっ!」
「でもさ…問題は、分配先と、その方法だよな?」
「それなら、明日には解決すると思いますよ?」
ベルダンディーは、にこやかに笑う。
「そうかい?」
「ええっ!」


慌しい一日だった。そして、こんなに凄いバレンタインは
もう良いや、と思った。
俺は、愛する人からの思い篭ったチョコだけで良いと思う。
ベルダンディー
「はいっ螢一さんっ」
「その…あの…愛してるよ」
「……はいっ 私もです」
日が暮れて、二人のシルエットが綺麗に重なった。


Rhapsody in St.Valentin's day. end.


by belldan Goddess Life.


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gdgdで長くなり、しかもかなり割愛してしまった場面が
あります。そんなわけですが、読んで下さった方には
ごめんなさいと言っておきます...orz