風が気持ち良いねって

  もし、あたし以外の...


彼が学校へ行っている時は、どんな風なんだろうと
考えている。あたし、ちょっと心細いなって。
夕暮れ、帰り道、いつもの河川敷で遊んでいる時は
何も考えずに、そしてこの時間が、いつまでも続く
そんな気がしていた。
つい、この間の事だった。あたしは彼に聞いてみた。
「ねぇ、仙太郎?学校では、どんなの?」
その時あたしは、うつむいて下草をイジイジと触って
でも、時々横目で彼の表情を伺っていた。
彼は向こう岸を見つめて、ぼんやりとしていた。
「どんなのって…普通だよ」
そしてにっこり笑って、あたしの方を見る。
「おかしなスクルド!」
そして、大笑いをされた。


あたし、結構マジメに聞いているんだぞっ
いつもの強気もどこ吹く風か、何だか怖いって思った。
ねぇ、仙太郎…あんたが本当に好きな娘って誰なの?


僕が学校へ行っている時は、どんな風なんだろうと
考えている。
おんなじ学校で、同じクラスで、行きも帰りも
一緒だったら、そしてこの時間が、いつまでも続く
そんな事ばかり考えてる。
「ねぇ、スクルド?僕が居ない時って、どんなの?」
川面を渡る風が、時折彼女の髪を揺らせて、僕の
心がドキドキ早鐘を打っているのを、悟られないよう
しなきゃって。
「えっ?あ…あたしも、普通だよっ」
少し間を置いて、返ってきた言葉と彼女の表情を
僕はきっと忘れない。
「同じ事、聞かないでよねっ!」
彼女が、怒り、はにかみ、顔を赤くして、そして
うつむいて、すねて、風が横切ると
僕はとても、嬉しくって、切なくって
「うん、ごめんよ」 …でも好きなんだって言えずに
苦笑いをしてしまう。


小さく「バカッ」って彼女が言った。


風が気持ち良いねって、そんな自然に言えたらなぁ...


by belldan Goddess Life.