恋する気持ちと愛する思い

もうすぐそこに、春が来る。
そんな季節の予感を感じる午後には
他愛のないお喋りが、似合うと思わない?


カランと店の扉が開いた。
「いらっしゃーい!あら?」
「いらっしゃいませ〜 まぁ、長谷川さんっ」
ベルダンディーと螢一が勤める店、ワールウインドに
猫実工大自動車部現部長である、長谷川 空がやって来た。


「ごめんなさい、螢一さんなら、ちょっと…」
ベルダンディーは、申し訳なさそうに言うと
「用事で出掛けているんです」
突然訪問した空ちゃんに、現状を話した。
「また自動車部の事?もしかしたら、あいつ等がまた?」
藤見 千尋さんは、またかよ〜と言って、頭を掻いた。


「いえいえ…違いますぅ あの今日は…」
空ちゃんは、そう言ってから、ハッとした。
「あ、そだ…こんにちは、先輩方っ!」
危うく、忘れそうになった挨拶をした。
「はい、こんにちは!」
「こんにちは、長谷川さんっ」


それから空ちゃんは、今日訪問した訳を話した。
「じゃじゃ〜ん!これですよ、コレっ!」
持参した手提げ袋を掲げ、自慢げなポーズで
「ほら、この間オープンしたじゃないですか?猫実商店街
に新しいケーキ屋さん。そこの新作なんですよ!」


「へぇ〜」
「まぁ、ステキですねっ」


「うん、だから…この際だから、森里先輩は居ない方が
良いんですよね?だって、女の子同士で楽しみたいじゃ
ないですか?」
空ちゃんは、満面の笑みを浮かべ
「それに…先輩方と色々お話したかったし…」


「それも、そうよね…」
千尋さんは、何だか納得している。
「それじゃ私、紅茶を淹れてきますねっ」
ベルダンディーも、楽しそうに笑った。


座ってて、と千尋さんに促されてテーブルに着いた
空ちゃんは、少し恐縮気味だったが、ふたりの先輩達の
優しい心使いに、安堵を覚えるのだった。
やがてベルダンディーが、紅茶の入ったポットを
そして、カップ千尋さんが持って来てテーブルに着くと
女同士の他愛のないお喋りに花が咲く。


近所のネコの話とか、自動車部の男子の話、バイクの話
紅茶の淹れ方、お掃除の基本と、上手なサボリ方等々…
「手を抜くって訳じゃないのよね、要は如何に合理的に…」
千尋さんが熱弁するのを、ウンウンと聞いているふたり。
「そうよね、料理の基本は、つまり…思う事にあるの」
ベルダンディーは、今日作ってきたお弁当のおかずに付いて
熱心に話をした。
とても優しい先輩達の声は、空ちゃんを夢心地にさせる。


あたし、本当に幸せだぁ…


あたしも、先輩達のようになれれば良いのだけどな…
あたしは、先輩達のように、カッコ良くもないし
綺麗でもない、料理も上手く出来ないし、恋も下手だし。
そこで空ちゃんは、ふたりの先輩に質問をした。


「あの…失礼だと思うんですが、先輩たちは失恋した事とか
片思いした事ってありますか?」


突然の質問に、ちょっと驚いたふたりだが、そこは先輩だ
「そんなの当たり前よ〜あるに決まってるじゃん!」
千尋さんが、豪快に笑い飛ばした。
「いい?空ちゃん?良い女ってのね、色んな事をたくさん
経験して、出来上がって行くのよ?」


「でも…辛いじゃありませんか、失恋とか、片思いとか…」
しんみりと空ちゃんは言った。
彼女は未だに、片思い進行中だ。
「大丈夫っ!あたしが保障する!あんたはイイ女になれる!」
千尋さんは続けて
「だって、あたしの後輩だもん」
そう言って、空ちゃんにウインクした。


そうかな?と思う、でも千尋さんの力強い言葉に勇気が
沸いてくる。
「ありがとうございます、先輩…」
イイって、イイって、と千尋さんは笑って
「ところでベルちゃん?あんたは今、恋愛真っ只中だけど
片思いとか、失恋とか…した事あるの?」
話をベルダンディーに振った。


「ち、千尋さんっ!ベルダンディー先輩に、そんな事は
無いと思いますけど?」
慌てて空ちゃんがフォローする。
「ま、そうだわね…」
千尋さんは、ちょっと言い過ぎたかな、と感じた。



「あの…私にも、ありますよ…」



恋する気持ちと愛する思い。


by belldan Goddess Life.