恋する気持ちと愛する思い2

「あの、私にも、ありますよ…」


千尋さんと、空ちゃんは、突然の出来事のように驚いた。
だって、ベルダンディー先輩って、とても綺麗で…
「ええっ!ホントなの?そりゃ〜興味あるわねぇ」
千尋さんは、思わず身を乗り出した。


「ええ、随分昔の話なんです…」
ベルダンディーは、紅茶を一口飲み、コホンと咳払いして
言葉を続けた。


あれは…この世界がまだ始まったばかりの頃に、時の守護神
として地上界に赴き、音の調律を始めた時の事だ。
世界の森羅万象を調律する事は、とても大事な仕事で
この地上界の住人の協力が無ければ、成立しなかった。
その頃、文明の息吹はまだ感じれず、人々はとても質素な
生き方をしていた。いわゆる原始の頃だ。


小さな集落を見つけたベルダンディーは、協力者を募る為
そこにある家々を訪問したが、神々しい彼女の御身を見て
人々は畏怖の念を覚えるばかりだった。
人々は平伏し、女神の光臨を称えるのだが、それでは
肝心の音の調律が出来ない。
困惑の色を隠せずに、時間ばかりが過ぎて行く日々に辟易と
しつつも、諦めずにいると、ある青年に出会った。


その青年は、集落から離れ、ひとり山の中で暮らしていた。
村人から「変わり者」と言われたが、本人は気にしてない。
いつか、鳥のように空を飛ぶ事とか、風のように疾走して
大地を横断する事とか、その時代では、まさに夢のような
事を真剣に考えていた。


「私は女神のベルダンディーと申すものです」
青年の家に前に立ち、自らの正体を明かした。
「この世界の調律に降臨してきたのですが、この世界の方の
協力が必要なんです。お願いできますか?」


突然の訪問者は、まさに神だった。
青年は、最初は誰かの悪戯だと訝ったが、どうやら話は
本当のように思えてきた。
「しかし、俺のような『変わり者』でも良いのかい?」
「はい、お願いできますか?」


青年は少し考えていたが
「そうか、いいよ、手伝うよ…で、何をすればいい?」
ベルダンディーは、この地上界の人を拠り代として
世界を調律すると答えた。
「あの…少し手を出して頂けますか?」
「ん?こうかい?」
青年は素直に腕を差し出し、掌を掲げた。
ベルンダディーは、青年の手を取り、自身の胸に当てる。
「えっ?」
驚いた青年は、軽く悲鳴を上げたが、すぐに平常心に
戻った。柔らかな女神の胸の感触に驚いたが、これは
言うなれば儀式なんだと思った。


ベルダンディーは、高速言語で法術を唱えると
ふたりを取り囲むように魔法陣が構成された。
それは、ほんの数分の出来事だった。


「…終わりました。ありがとうございます」
ベルダンディーは、青年に感謝の言葉を告げた。


「そうかい、良かった…じゃ、俺はこれで…」
青年は、何事も無かったように言う。
彼の協力無くしては、この世界の調律が出来なかった。
ベルダンディーは、とても不思議な気持ちになった。
「あの、もし宜しければ、あなたの願い事を、その
ひとつだけ叶えて差し上げる事ができますが…」


「それって、さっきのお礼なのかい?」
ポリポリと頭を掻きながら、青年は言う。そして
「お礼なら、いいさ…なに、大した事じゃない」
じゃあな、と言って踵を返そうとする青年に
ベルダンディーは、呼びかける。
「あの…本当に良いのですか?願い事を…」


「ああ、良いんだ。願い事ってさ、自分で叶えるもんだ
そうだろ?」
「でも・・・」
困り果てる女神の顔を見て、青年は少し躊躇したが
言葉を綴った。


「そうだな…君に幸あれっ で良いだろ?」


じゃあ、と青年は走って行った。


それはまるで風のように、そう、爽やかな一陣の風の如く
私の心を通り過ぎて行って、その余韻だけを残した。
天上界に帰還しても、とてもとても気になってしまって
時々、こっそりと降臨し彼の姿を追った。


「気が付けば、私は恋をしていたと思うの」
そう言ってベルダンディーは、話を締め括った。


「それって…人間と女神の叶わぬ恋ってヤツ?」
聞いていた千尋さんが、尋ねた。
「だ、だとしたら…失恋って訳ですかっ!」
空ちゃんも、身を乗り出してきた。
「でも…ロマンチックなお話よねぇ、切ないけどね」
千尋さんが乙女チックモードになった。
「それで…もしかして、もう会えなくなった…」
空ちゃんが涙目だ。


「いいえ、時を越えて、私は巡り合えました」
ベルダンディーは、とても誇らしげに
「それが螢一さんっです」
と言葉を続けた。


「ちょ、ちょっと待ってよっ!それじゃ…今までの話は
ベルちゃんのノロケ話って事?!」
「えっえっ?そうなんですか?でも、良かったですぅ」
なぁんだ、作り話なのか、と千尋さんと空ちゃんは
胸をなで下ろした。


いいえ、本当の事なんです。とベルダンディーは呟いたが
それはふたりに言った言葉ではなかった。
私の心にある想い出には、姿は変われど螢一さんっが
傍にいた。ううん、私が螢一さんっの傍にいたの。


恋する気持ちと愛する思いは、時空を超える。
困難な時があっても、必ず報いる時が来ると思うから
私は、ずっと信じて、信じ続けているんです。


あなたの傍に、居たいと思うから。



  恋する気持ちと愛する思い。



by belldan Goddess Life.