April

4月になりました。
近くの公園の桜の木々も、それはそれはたくさんの花を
誇らしげに咲かせています。
人々はその下に陣取って、新しい季節を祝うようにして
祝杯をあげ、歓談し、笑い声があふれていました。


空は少し曇天、でもその中にある空気の、その季節の
感触は、まぎれもない春の息吹を辺りに漂わせていて
風はまだ冷たいけれど、心躍る時の始まりを感じて。
桜色した花弁を、そっと触ってみると、はにかんだ君の
表情を思い出して、思わずこぼれてくる笑みに、少し
照れてしまった。 春の午後に。


何かが始まる予感、それは誰にでもある予感。
もしかしたら…って。


小さな女の子の手にひかれて、若いお父さんと、その傍らに
とても美しいお母さんが、公園に入って来ました。
「おいおい、そんなに急がなくたって…」
困惑した表情、でも悪くはないと言った感じで、その男は
女の子の誘導を、快く思っている。
「そんなに急ぐと、こけますよ?」
傍にいる母親は、始終にこやかな笑みを浮かべている。
「大丈夫だよっ!早く早くっ!」
どうやら女の子には、お気に入りの場所があって、早く
そこへ辿り着きたいらしい。


その公園では、一番高い場所にある桜の木の下へ...


一番最初に到着した女の子は、お父さんとお母さんに
「早くおいでよ〜!」と手を振って
桜舞い散る坂の上で、笑顔がお出迎えだ。


小さな手が、空に掲げられていた。



 *** *** *** ***


天上界の定例会議に出席した昨日、概の事項が決定し
自身のスケジュールも順調に進んでいたリンドは
どうして自分がそんな夢を見たのか、理解に苦しんだ。
「既視感…それとも、いつかの記憶の断片なのか?」 
ベットから這い上がり、朝の支度をしながら、いつも通りに
今日のスケジュールを確認して、パッドを閉じる。
あと数日すれば、休暇に入るのだが、何やら胸騒ぎを覚える。


そう言えば、地上界の季節は春だったな。と思った。
ノルン達が住まいを構えるお寺にも、桜の木はあったと思う。
「間に合えば、良いのだが…」
そうつぶやいて、そして自分が自然に微笑んでいるのを感じた。


悪くはない。そして、早く会いたいと思っている自分も
可愛いものだと感じた。


「さあ、任務だ」
支度を済ませ、部屋を出て行く。
「行ってくる」
玄関先に飾られた、写真に声をかけて。


April


by belldan Goddess Life.