策士、策に溺れる

考えるんじゃない、感じるんだ…これは誰かが
言っていた有名なセリフだ。
俺はバイクに乗って峠を攻めている時に
この言葉を思い出すんだ。
風に乗る感じ、空気の層を切り裂くんじゃなくて
何て言うのか、一体になるって感じなんだけど。


「風に寄り添う感じかしら?」
ベルダンディーは、微笑みながら言う。
「それとも、優雅なワルツを踊っている感じ?」
本当に楽しそうに彼女は言った。
一人で走っている時は、何も感じなかった事が
ベルダンディーと共に、街路を峠を、そして
前に進んで行く事、それ自体が感動を呼ぶんだ。


買い物帰りの道を、こんなに楽しめるのも
彼女のおかげなんだと思う。
そして眼前に見えてくるのは、俺たちが住まう
古いお寺、正門を通り過ぎ、わき道に入って
裏門からバイクを入れる。いつもの手順だ。
バイク置き場に止めた愛車に、いつも
「ご苦労様、今日も楽しかったわ♪また走りましょう
バイエルンくんっ!」
ベルダンディーは、そう言ってコツンとタンクを
叩く。これは俺のマネだけど、彼女がすると可愛い。
ちなみにバイエルンくんは、俺のBMWの事で
ベルダンディーがニックネームを付けてしまった。


「ただいま〜」
「ただいま帰りました〜」
ふたり玄関先で声を揃えて。
「あら?誰もいないのかしら?」とベルダンディー
首をかしげる
「まぁいいさ、その内帰ってくるだろうしね」
俺は靴を脱ぎながら彼女に言った。


程なくすると、スクルドが自室から出てきた。
「…お帰りなさい…おねえさまぁ...」
いつになく元気がない声だ。
スクルド、丁度良かったわ♪おやつ買ってきたわよ」
そう言ってベルダンディーは、紙袋を見せた。
「おねえさま…それって、猫実薬局の?」
「そうよ、あなたのダイエットに役立つと思って!」
「まさか…まさか、またこんにゃくゼリー?」
「そう!正解ですよ!美味しいでしょう?」


スクルドは、後ずさりをしながら
「いやー!もうこんにゃくは、イヤなのぉ!」
とガクリと膝を付き、泣きそうな顔になる。


「そんなに嫌いなの?とっても美味しいのに…それに
ダイエット効果もあるって…」
ベルダンディーは、心配そうにスクルドを見詰めて
「ごめんなさい…あなたの為だと…思って…」
そう言うと、顔を伏せてしまった。


「あ、あのあのあの…そう言うつもりじゃなくて
あのその…ちょっと!螢一っ!助けてよ〜!」
スクルドは螢一に助け舟を求めた。
事の成り行きを、冷や汗まみれで見守っていた螢一は
「うん、でも…スクルドの気持ちも分かるけどさ
ほら、そろそろ夏のシーズンも近いよね?」
「夏?それがなによ?」
「夏って言えば…海だよな?」
「うんうん、で?」
「海辺で遊ぶ時は、何を着るのかな?」
「えっと…水着かな?」
「だよね…でさ、今年は仙太郎君と海に行かないの?」
「えっと…約束はしてないケド、行きたいと思ってる」
そこまで言って、スクルドは「あっ!」と何かに感応
して、急にモジモジし出した。


「そ、そうだわよねっ!うん!ダイエットは大事よ!」
それからベルダンディー
「お姉さまっ!あたし、ダイエットがんばるから!!」
わがまま言ってごめんなさい、とベルダンディーに告げ
頭を下げた。
スクルド…無理しなくていいのよ?」
心配そうにベルダンディーは言うと
「大丈夫よー!あたしには目標があるんだもん!」
スクルドに笑顔が戻って来た。
ベルダンディーから差し出された紙袋を受け取り
そそくさと、自室へ戻って行くスクルドを見ながら
「螢一さんっ すごいです!」とベルダンディー
俺に向かって感嘆の言葉を述べる。
「どんな法術でも不可能だと思います、なのに…」
「あ、いや…別に…」
そう言って俺は、頭をかいて笑った。
俺を見詰める瞳が、何故だが潤んでいるが印象的で
困ってしまった。



次の一手は神の一手か、それとも悪魔の囁きか…
ウルドは禁断症状に苛まれながらも、ペイオースの
降臨を今か今かと待ち望んでいた。
「酒…飲みてぇ...」
特にペイオースが参加してくれると、数の上でこちらに
分がある…少々難はあるが、そこはドサクサまぎれに
何とか出来ると思う。
「何たって、戦は数よね」そう自分に言い聞かせていると
ちょっと希望が見えてきそうなウルド姉さんだった。


それから数時間後、庭に光のゲートが降りて来た。
ペイオースの降臨であった。



次回、迷宮の掟。


by belldan Goddess Life.


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まったく予想が出来ません。そして予定も立ちません(泣)