五月の雨

そろそろオイルの切れる頃だとは思ってた。
バイクのメンテナンス、それは俺の仕事でも
あるし、そう、人生と言っても良いくらいだ。
そんな訳なんだが、いかんせん人には、ド忘れ
と言うものがあるらしい、あるらしいと言えば
他人事のようだが、今日はその当事者となって
しまった。


「あれ?おかしいなぁ?」
バイク置き場に置いていたはずのエンジンオイル
どこかへ消滅したのか、或いは誰かの画策なのか
それは分からないが、とにかく無いのだ。
「たしか…ええっと…」
記憶の源泉を辿る旅に出ようとするのだが
これが上手くはいかない。
「たしか、ここへ置いたハズ…だけど?」
その確かってのが、実に曖昧だった。


ベルダンディーに記憶を思い出させてもらうって
方法もあるんだけど、思い出したとて、物が
無ければどうしょうもない。
そこで今日はお休みではあるが、店へ行って
エンジンオイルを調達しようと考えた。
バイクに乗ってはいけないし、電車では何だし
そこでベルダンディーのお買い物用の自転車の
登場だ。
螢一は、バイク置き場がある裏から、縁側に出て
そして母屋の中、厨に向かって声をかけた。
ベルダンディー!ちょっと、お願いがあるんだ」
「はぁーい!」
その声に反応して、すぐさま返事が聞こえた。


螢一は、事の次第をベルダンディーに告げた。
自転車を借りて、店までオイルを取りに行きたい。
それを聞いてベルダンディー
「ええ、使ってください…でも、大丈夫ですか?」
幾分心配そうな気配を見せた彼女に
「大丈夫だよっ。これでも以前は・・・」
と言い掛けて、そう言えば俺も以前は自転車で
どんな場所にでも出掛けていたんだよな、と
螢一は思い出す。
「ん?」不思議そうな顔をしてベルダンディー
「あの…螢一さんっ?」
それはほんの一瞬なのだけど、記憶を辿る螢一の
表情を読み取った彼女の疑問だった。
「本当に…大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫っ!」
確信満ちた螢一の表情を確認したベルダンディー
「分かりました、気をつけて…」
「分かってるって!」


そんなこんなで、久しぶりに自転車で出掛ける事に
なった螢一だが、やはり久しぶりってのは否めない
事実で、この後、悪戦苦闘する羽目になってしまう。



次回、突然の雨にやられて。


by belldan Goddess Life.


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最近の書き出しは、こんな風になる。。。