雨の日の魔法

その時、どうしてだか「雨にぬれても」って歌が
心の中に去来し、そのメロディーを歌おうとして
いる自分がいた。
「痛っ...」
どうやら利き腕をかばう様にして、反対の腕を
地面に叩き付けたらしい。
ゆっくり指を動かしてみた。動く…痛みはあるが
骨折は免れそうだ。しばらく鈍痛を噛み締めたまま
倒れこんだ姿勢を保っていた。
しばらくすれば動けそうだ。ところで自転車はどうだ
ろうか?と倒れ込んだ自転車を見詰めた。
前輪のタイヤが酷く痛んでいるようだが、どうして
急にパンクなんて…と記憶を辿るのだが、それはまるで
記憶喪失者に質問をしているようで、何だか味気無い。


雨のせいで滑ったんだよな…
スピードが出ていなかったのは幸い…とは言え
突然の事で回避できなかった。
でも乗り物でこけるなんて…何だか久しぶりだよな。
自分のバイクじゃ、有り得ない出来事だしな。
そんな事を考えながら自嘲していた。


雨はまだ、その勢力を謳歌していた。


しばらくして、体を動かせるくらいになった。
気をつけるようにして立ち上がると、自転車のそばへ
向かった。
車体を起こして見る。前輪のタイヤのサイドの亀裂を
確認し、取り敢えずの原因を探ってみる。
「ははっ...分かんないや」
何かを踏みつけた拍子に、例えば枝とかの端が刺さって
しまったのだろうか?とも考えたが、その証拠はすでに
地面から遥か遠くへと旅立っているだろうしな。


ベルダンディーには悪い事をしたなぁ…
彼女のお気に入りの自転車を、こんな風にして壊して
しまうなんてなぁ…
心配そうな彼女の表情を思い浮かべると、とてもバツ
悪くって、心が沈んでしまいそうになる。
帰ったら、ちゃんと直そう。


ずぶ濡れの服、ウインドブレイカーは腕の所が少し裂けて
いて、明らかに転倒の傷跡だった。
それでも雨宿りの為に、自転車を動かすと、木陰へ向かう。
もう落雷の心配は無さそうだ。
木の根に座り、一息付いた。その時、先の歌を思い出す。
「Raindrops keep fallin' on my head...」
雨にぬれても…か。


西の空が、少しだけど明るくなりそうだ。
もう少ししたら、この雨も止むんだろう。
そう考えたら、何だか切ない気持ちになってしまった。


やがて西の空の雲間から、太陽の日差しが差し込んで来た。
それはまるで、天空からのスポットライトのような感じで
暗雲の世界を照らし、その荘厳な自然の力を啓示するかの
ようだ。
そして天からの架け橋が架かる。




次回、雨に謳歌う。


by belldan Goddess Life.


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お待たせした割には、何とも…(待ってないか)
そんな訳でぇ...まだ少し続きそうです(滝汗)