5月の雨(完)

突然の雷雲、突然の雨に少しの不安はあったけど
でも大丈夫、螢一さんっなら大丈夫だと思ってた。
きっとどこかで雨宿りしながら、歌でも歌っていて
突然の出来事を、楽しくすごしているに違いないと。
私は正門に向かい、表通りを見つめてた。
暗転した空、でもそれは悪い事じゃない。
この自然の息吹を感じながら、私も呼吸を合わせて
深く静かに自然の中に存在した。


雷は、言うなれば、雨のサインだわ。
乾いた地表に、そして木々に潤いを与え、この世界を
浄化する作用があるのですから。


差した傘に当たる雨の音を感じながら、ベルダンディー
はその瞳を閉じて、静かに祈りを捧げた。
それまでホワイトノイズのように聴こえていた雨音が
色んな要素のフィルターに通されて、音に色が付いて
来る。それはまるで七色の虹のようで、五線譜の上に
散りばめられた音符が、メロディーを奏でるようだ。
地面に、そして正門の瓦屋根にと、雨は降り注いで
互いに違うリズムをとっていたが、ひとつのメロディー
に導かれて、重なるように音が響いていく。
ベルダンディーは、深呼吸をし、それから歌を歌い出す
その声は、まるで清涼感を帯びた風のように、空へと
舞い上がって行った。


やがて雲間から、日の光が差し込んで来る。
光の矢のようなその輝きは、大地に突き刺さり
白い蒸気を揚げて来ると、空と大地に架け橋が架かる。


「螢一さんっなら、大丈夫っ」
愛しい人の名を呼ぶと、心から力が湧き上がって来る。
それまで胸元で合わせていた両手を空に掲げて、この
愛しいと思う気持ちを、空へと、その人に届けと。
「私、ここで待ってますから」
本当は、すぐにでも追って行きたい。でも螢一さんっは
大丈夫だ、と言っていた。


この虹の橋を渡って帰って来る、だなんて、ちょっと
ロマンティックかしら。


そしたら、ほら、彼の姿が見えてきた。
何があっても大丈夫、だって螢一さんっには私がいるもの
そのシルエットが鮮明に見えてくる。
「おかえりなさい、螢一さんっ」
それから、私は彼に駆け寄った。


でも、あまり無理しないでくださいね、螢一さんっ
愛しい人を抱きしめて、私は心から思った。



5月の雨。


by belldan Goddess Life.


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前回の 雨に謳歌う。の蛇足的話だね。。。
これでこの話はおしまい。読んでくださった方、感謝します。