梅雨

 縁側で雨を見ていた。
庭の紫陽花が紫色をして、雨に踊っている。
不規則なリズム、不安定な茎の揺れが不思議な
世界へと誘うかのように。
「はぁ〜たいくつぅ...」
スクルドがため息を漏らすと、眼前が俄かに曇る。
さらに雨がきつく降って来た。


ザァザァとノイズ、屋根瓦を叩く音、地面からまるで
飛び出して来たかのような、その雨に視線は虚ろになる。
両手で膝を抱いて、仙太郎と約束した事とか、カエルの
事とか考えて見た。
特にカエル。カエルは嫌いだよ、とスクルドは思ってる。
お姉さまから聞いた話、カエルになった王子様の話。
でもそれは御伽噺だわ、信じられないもの。


そんな折、庭でカエルの鳴き声が聞こえた
「ゲコゲコ ゲコゲコ」
彼らは雨を謳歌している。楽しみな季節の到来だ。
「ああ、ヤダヤダ…」
そうして耳を塞いでしまうスクルド、目線は下に。


その時、緑色の大きな頭が見えた。
スクルドお姉ちゃん!ほらぁー!カエルさんだよー」
「ほらー!」
マリアベルとカレンは、彼女らのお気に入りの雨合羽を
はおり、庭で遊んでいた。
それは全身緑色で、まさにカエルのようだったし、頭巾に
ちゃんと耳と目が描いてあった。
「ケロケロ〜って鳴くんだよ〜」
「ね〜!」
その大きなカエルを見て、体を硬直させてしまうスクルド
「いやぁ〜!ダメぇ〜!」
咄嗟に胸元からスクルド・ボムを取り出すと、カエルに
向かって投げてしまう。


しかし、こそは百戦錬磨のマリアベルとカレン、事前に
察知したのか、難なく避けてしまった。
幾ら殺傷威力が低下しているボムと言えども、眼前で
爆発すれば、幾ばくかの損傷は否めない。
「ゲホンゴホン…って!」
本末転倒、結局スクルド自身が被害にあってしまった。


「きゃー」と笑い声遠く、スクルドの姪っ子達は
程なく安全地帯へと退散していた。
そして次の攻撃に対応していたのだが、どうも様子が
違う。
スクルドの追撃が無いのだ。
よく見れば、スクルドは意気消沈している。
これは一大事だとマリアベルとカレンは、彼女の元へ
はせ参じた。
「ごめんなさい…スクルドお姉ちゃん…」
「あたしたち、悪い子でした…ごめんなさい…」
そう言って、しおらしく誤る姿にスクルドは目をあげ
優しく「いいのよ…気に…して…ない…けど…」


でも、やっぱりカエルは嫌い。
そう思ったスクルドだった。



梅雨の日。


by belldan Goddess Life.