雨音

「あっ!冷てぇー!」
うなじに命中した水の一滴は、そのまま背中に
回って来た。
天井を見てみると、ある部分が少し滲んでいる。
「ありゃ、こりゃ…雨漏りか?」
よく考えれば、この母屋も相当古い建物であって
日々のメンテナンスは欠かせない代物だった。
それから等間隔で、ポツリポツリと雫が垂れて来る。
「えっと…あ、あったあった」
受け皿には少し小さいが、それでも少しは凌げそうな
空き缶を見つけ、雨漏りする箇所を見繕って置いた。
初めは少し甲高い音がして、少し水が溜まり出すと
ポチャンと音が変わる。
「古池や〜蛙飛び込む 水の音...ってね」
少し自嘲気味に笑って、それから溜息を付いた。


「螢一さんっ?どうかしたんですか?」
襖がスッと開いて、見目麗しい女神さまっが登場。
「あ、ベルダンディー...実はさ、雨漏りなんだよな」
螢一は、頭をポリポリと掻きながら笑って言った。
「あらあら!それは大変だわっ!」
心配そうな女神さまっの表情、そして
「私が直してきますね」と螢一に伝える。


「あ、大丈夫だよっ 明日には直すからさ」
螢一は、心配そうな女神さまっに言うと
「心配しなくて良いからさ」と微笑んだ。
「そうですか…螢一さんっが、そう仰るのなら…でも
ほら、また…そこにも雨漏りが…」
ベルダンディーは、そう言って、その場所を指差した。
「あ、ほんとだ…えっと…」
何か受け皿は無いかと探したが、生憎何もない。
途方に暮れる姿を見た女神さまっは
「えっと、私…何か探して来ますね」と言って
部屋を出て行く。
程無くして部屋に戻ってきたベルダンディーの手には
たくさんのティーカップがあった。
「あの…どれが良いでしょうか?」と楽し気に尋ねて来る。
どれが…と聞かれても、困ってしまうので、取り敢えず
一番目に付いた物を指差して
「うん、じゃあコレにしようかな?」と答えた。


「では、はいっ螢一さんっ」
そう言って差し出されたカップを受け取り
漏って来る場所に置いた。
カップは陶器なので、また違った音に聞こえる。
「たくさん持って来ましたから、もう大丈夫ですねっ」
嬉しそうにベルダンディーは言った。


うん、確かに大丈夫なんだろうが、これ以上雨漏りされると
今夜は、この部屋で眠れそうにないな。
ピチャン、ポチャンと楽しげな音が木霊する空間に
女神さまっとふたり…これもまた風流と言えば風流なんだけど
明日には直したいものだ。


雨、止めばいいんだけどなぁ。



 雨音。


by belldan Goddess Life.


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ずっと続く趣味の世界、過度な期待は禁物です。