彼女の夏

アクアマリンの生地は荒いコットンで
裾には淡い黄色のひまわりがプリントされていた。
端正なトルソー、肩を露に出したワンピースは
そのまま夏の避暑地を連想させた。
彼女がくるりと姿勢を変えると、裾のひまわりも
後から、くるりと着いて来る。
さらりとした感触を楽しげに、そして愛しむように。


長い髪をアップしたポニーテールが踊ると、白いうなじが
涼やかに映し出される。
白く清涼な風が、まるでそこから生まれて来るような
そんな気がした。
素足のまま畳敷きの居間を通って、厨へと向かう後姿には
何時だって神々しいまでの翼が見えていた。


俺はただ、その情景を息を呑んで見詰めるだけだ。
そこに在ると言う実感が希薄になって来る。
でも、彼女は確実にそこに存在している。


夏の日差しには、まだほんの少し早い、7月の昼下がりに。


俺は時が過ぎて行くのを、ただじっと待っている旅人のようだ。
時折通り過ぎる風に、目を細めてやり過ごしている。
風が止むと、あたりの景色が変わって見える。
そんな気がする、そんな気がした。


手持ち無沙汰な俺は、そばにあったバイク雑誌を手に取ると
所作なさ気にパラパラとページをめくって、ぼんやりと
グラビア写真を見ている。
風が止むと、とたんに額から汗が噴出して来た。
「暑いよな…やっぱり」
無造作に手の甲で汗を拭い、空を見上げた。
縁側から見上げる空は、ひさしに遮られて、奇妙な形になってる。
青と白のコントラストが、くっきりと浮かび上がる空。


「お待たせしましたっ 螢一さんっ」
トレイに載せられた冷たい飲み物を持って、ベルダンディー
厨からやって来た。
「あ、ありがとう ベルダンディー
カランと氷がグラスに触れる音がした。
「暑くなってきましたねっ」
俺の傍らに彼女は座り、そう言って微笑む。
「うん、もう夏なんだよね」
「ええ」
「あのさ、次の休みには、海行こうか?」
「はいっ!」


出来れば、二人きりでさ。



 彼女の夏。


by belldan Goddess Life.