水の妖精

「おっじさーん!居るっ?!」
河川敷の外れにあるジャンク屋に訪れたスクルド
満面の笑みを持って、事務所の入り口を開けた。
「あれぇ…留守なのかぁ...」
数日前に発見したデバイスの購入費用を、今日ついに
捻出できたスクルドは、矢も立ても堪らずにやって来た
と言う次第だ。
それなのに留守だとは…付いてないなぁ、とスクルド
溜息を付くのだった。


仕方ない、出直して来ようと踵を返したその時
たくさんのジャンクの山の裾野に、おじさんが座って
いるのを発見した。
「あっ!おじさんー!居たんだっ!」
おじさんの元へと早足で駆けていくスクルドだった。


「あ、スクルドちゃんか…イテテッ...」
「おじさんっ!大丈夫?!」
「ああ、やっぱり年だわなぁ…ちょっと油断したわい」
そう言っておじさんは、腰の辺りをさすった。


おじさん、怪我をしたんだ…こんな時、お姉さまっが
居てくれたなら、法術で簡単に癒せてしまうのになぁ
どうして良いのか途方に暮れているスクルドを見て
おじさんは「大丈夫じゃ、ちょっと安静にしとれば…」
そう言いながら立とうとして「あ、いてて...」
と、またしゃがみ込んでしまった。
「おじさんっ!大丈夫じゃないよっ!あたし…誰かを
呼んでくるから、待ってて!」
泣きそうなスクルドだった。それを見ておじさんは
「いやいや、このまま、ちーと座っておけば直るわい」
今にも泣き出しそうなスクルドに、にんまり笑って答えた
のだった。


その少しの間だけ、店番を頼まれてはくれんか?と
おじさんは、両手を合わせてスクルドに頼んだ。
「うん、それ位ならあたしにだって出来るよっ!」
任せておいてっ、とスクルドは言った。




「さあさあ、お留守番って…違うよね、店番だもんね」
間違いを苦笑いで制して、スクルドは事務所に入る。
いつもおじさんが座ってる椅子に腰掛けて、ふと思った。
あれ…あたし、何か忘れてる?


「あ…ああっー!ホント忘れてたよー!」
仙太郎君との約束、今日は午後から彼のBMXの試合だ。
絶対に応援に行くからねっ、と彼女の方から念を押した
約束だった。
「どどど…どーしよー...」
おじさんに頼まれて、店番しなくちゃいけないし、ううん
それよりも、もっと大切な約束があったんだよ。
いっぺんに両方なんて出来ないよぅ…と途方に暮れたが
ある言葉を思い出した。


『猫の手も借りたい位に忙しい…』


「そうだわっ!今の状況を冷静に考えると、そう言う
状況なんだわよね?そうよね?」
と自問自答しながら、善は急げと言わんばかりに
キッチンへ行き、大きめのたらいを発見したスクルド
そこに水をはり、簡易ゲート作成し、森里家の水場へと
急行した。


*** *** *** ***


「ぐわぁー 何だってオレを連れて来るんだよっ!」
「ちょっと位、手伝ってくれても良いじゃないの!」
そんなやり取りをするスクルドとヴェルスパー。
突然、まるで拉致された格好になったヴェルスパーを
水のゲートで使って連れて来た。
「あのね、あたしはちょっと用事があってね、それでね
アンタに、ここの店番を頼まれてほしい訳よ」
「…え?」
「店番よっ!店番っ!」
「オレに?マジで?」
「マジよっ!大マジなのよっ!」
「って言っても、オレは猫だぜ?」
「そうよ。そして、元1級魔のねっ!」
「何があっても知らないからなっ!」
「大丈夫よぉー!夕方までには戻ってくるからっ!」
「…って、それが大丈夫な理由か?」
「いいからっ!アンタはそこに座っていれば良いから!」


結界でも何でも使って良いからねっ!とスクルド
言い残して、その場を後にした。


「ホント、女神ってヤツは、どいつもこいつも横暴なん
だろう…」
溜息まじりで悪態をつくヴェルスパーだった。


 ピチャン…


水の滴る音がした。


「何だ?どこか水漏れでもしているのか?」
あたりを見渡しても、何も痕跡はない。
周囲を見渡した目を、もう一度元へ戻すと、そこに
小さな女の子が立っていた。


「誰だっ!」
「ここは、どこ?あたし…どうして此処に?」
その小さな女の子は、今にも泣きそうにしていた。



 水の妖精 その1


by belldan Goddess Life.


*** *** *** ***


前回の続きを掲載しようと思ったのですが、何を
どう書いても、微エロにしか見えないので自粛(苦笑)
どこかで掲載しようとは思うのですが。。。